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賃下げ社会の崖を示す 二つの関生事件判決

竹信 三恵子|2023年3月24日2:52PM

産別労組への無理解

 実は、判決は、コンプライアンス活動自体は悪くないとしている。問題は、関生支部の真の目的が法令違反の是正を利用した「アウト対策」であり、これを通じて企業から金品を脅し取ることにあるという解釈だ。

「アウト対策」とは、関生支部が取り組んできた協同組合への加入促進活動だ。【図表1】のように、生コン業界では、大手セメント会社と大手ゼネコンが乱立する傘下の生コン会社を競わせて原料のセメントを高く売り、生産物の生コンを買いたたいてきたといわれる。

 こうした生コン会社の運搬を担う中小零細輸送会社は体力が弱く、日々雇用の運転手も多い。そのため、個別企業がつぶれても労働権を守れるよう所属企業や正規・非正規を問わず加入でき、業界全体の改善で労働条件を向上させる「産別労組」が必要になる。

 こうした多重下請け構造の下では、雇用契約を結ぶ輸送会社への要求だけでは賃上げは難しい。

 そこで関生支部は、労働三権の中の「団体行動権」(労働者団体が使用者に対し、労働条件の維持・改善を目的として団体で行動する権利)を生かして生コン会社に協同組合づくりを働きかけ、その価格協定を通じて値崩れを防ぎ、確保した利益を運賃に回すよう交渉して運転手の賃上げを図る戦略を取った。

 そのために必要だったのが、協組外の「アウト業者」に協組加入を働きかける「アウト対策」だった。その結果、【図表2】のように滋賀や和歌山をはじめとする近畿圏の生コン価格は上昇し、運転手の賃金は年収500万~600万円水準を達成した。

 つまり、関生支部は「非正規・女性も含む賃上げ」という国策を実現させた労組ともいえる。

 大津地裁判決には、このような「業界全体の改善を通じて傘下の労組員の待遇向上を図る」という産別労組への理解が見えない。

 コンプライアンス活動の目的がアウト対策だとする証拠も弱く、逮捕後に検察側証人に転じた元組合員の証言に、ほぼ依存している。

 さらに、判決で会社が「コンプライアンス活動」によって脅されてカネを払った実例、としている事件で、被告人の前委員長は証拠の不備から大阪高裁判決で無罪となっている。

 そうした、検察側に不利な証拠を顧慮しない姿勢の背後に、産別労組は本来の労組ではないから労働権保障の対象外、という思い込みがちらつく。

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