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ウィシュマさん死亡事件、入管の「悪意なき拷問」と「悪意ある隠蔽」とは

西中誠一郎|2022年1月20日5:38PM

【「事実を矮小化している」】

 ビデオにはこのほか、昨年2月24日午前4時頃の記録として、こんな様子が映っていたという。

「ウィシュマさんは死ぬ間際のような本当に苦しそうな叫び声、断末魔のような唸り声を10分以上は繰り返していた。しかし、職員は背中をさすって大丈夫かと声をかけるのみで、救急車を呼ばない。最後はウィシュマさんをベッドに座らせ、後ろに支えのような毛布を置き、『あと4時間待って』と言って、立ち去った」(階議員)

 この部分について、最終報告書には「日中以外では、午前4時台にも体調不良を訴えた」と1行書かれているのみだ。階議員は「最終報告書に嘘は書かれていないが、事実を矮小化する意図が明らかなことが、ビデオを見てはっきりわかった」とし、これを「悪意ある隠蔽」であると話した。

 ビデオ開示に先立ち、出入国在留管理庁(入管庁)は12月21日、「改善策の取組状況」「現行入管法上の問題点」と題する二つの文書を公表した。一つは、前記の「最終報告書」に示された「改善策」の進捗状況の報告。もう一つは、帰国できない事情がある難民認定申請者など非正規滞在者(入管庁は「送還忌避者」と呼ぶ)の長期収容問題などについてだが、その内容は、仮放免者(一時的に収容を解かれた人)の監視強化、難民申請回数の抑制、強制送還の迅速化の必要性などを誇張するための統計データだ。

 階議員によると、ビデオ開示以前に与党議員には入管庁から文書についての説明があった模様だが、野党議員にはなかったという。28日の会見で古川禎久法務大臣は理由の説明を避けた。政府は再び通常国会に「入管法改正案」を提出する方針だったが、1月8日に一転し、再提出しない「方向」と報道された。いずれにせよ通常国会で入管制度の問題の審議が不可欠だ。

(西中誠一郎・ジャーナリスト、渡部睦美・編集部、2022年1月14日号を一部修正)

※岸田政権は「入管法改正案」の通常国会への再提出を見送った。(追記:1月20日編集部)

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