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辺野古新基地建設は争点にならない? 
政府がゆがめた名護市長選の構図

阿部岳|2022年1月14日9:59PM

【基地問題をめぐる因縁】

 渡具知氏に挑むのは国政野党などの推薦を受ける新人の名護市議、岸本洋平氏(49歳)。新基地反対を掲げ、判断を示さない渡具知氏を「無責任だ」と批判する。昨年12月の総決起大会では新基地を「ここで止めるため、政治生命を賭けて取り組む」と表明した。

 選対関係者は「岸本ブランドがあるとは言え、もっと顔と名前を売っていかなければ」と語る。1998年から8年間市長を務め、今も根強い人気がある故建男氏を父に持つ。建男氏が最初の選挙で、今の渡具知氏と同じように新基地への賛否を明らかにしないまま保守陣営から当選していたのは、歴史の皮肉と言えるだろうか。

 建男氏が初当選した選挙は、1997年12月の名護市民投票の直後だった。新基地反対が54%、賛成が46%という結果に反して保守系市長が新基地を受け入れ、責任を取って辞任。後継として、もともと「バリバリの革新」で反対票も取り込める助役の建男氏に白羽の矢が立った。

 建男氏は市長就任翌年の99年、名護市として再度の受け入れ表明をする。その際、基地使用協定の締結など七つの条件を付けた。しかし政府は2006年、それまでの計画も約束もすべて反古にして現在の沿岸部埋め立て案を決定した。

 建男氏は同年の退任から49日後、肝細胞がんで死去した。62歳の若さ。「基地問題に殺された」と言われた。16年後、長男が同じ問題に向き合うために、市長選に出馬する。

 候補者それぞれに屈折がある。単純な基地「賛成派」対「反対派」の構図ではない。あえて単純化するなら「あきらめ派」と「反対派」の争いになっている。

 そうさせたのは、政府である。民主主義の理念から最も遠いあきらめという感情を、国策として名護市民に植え付けた。新基地をめぐる賛否の争いにならないよう、選挙の構図自体をゆがめてきた。

 新基地に限れば、名護の民意は1997年の市民投票ですでに明示されている。2019年の県民投票で反対はさらに増え、沖縄県民全体と同様に70%以上を占めた。

 25年間、基地問題に翻弄され、反対の意思を繰り返し示しても政府は聞き入れない。美しい海は護岸に囲まれ、連日土砂が投げ込まれ、陸地化されていく。

 基地建設が止まらないならせめて暮らしの改善を願う。基地問題からはいったん降りる。4年前の市長選は、市民のそういう選択だった。そのことを、よその誰が責められるだろう。

実現しない「本土並み」

 今年、沖縄は政治の季節を迎える。主要市長選や参院選を経て、秋に天王山の県知事選がある。

 日本の市民には選挙結果だけでなく、なぜ沖縄の選挙で毎回基地問題が問われなければならないのか、その根本原因に目を向けてほしい。真に問われるべきは、明確な反対の民意にもかかわらず基地建設を止めない政府と、それを許している大多数の日本の有権者ではないだろうか。

 日本が基地を「本土並み」にすることを約束し、沖縄の復帰を迎え入れてから5月15日で50年。名護市長選の現実は、半世紀にわたる日本の無為無策を照らし出している。

(阿部岳・『沖縄タイムス』記者、著書に『ルポ沖縄 国家の暴力 米軍新基地建設と「高江165日」の真実 』〔朝日文庫〕。2022年1月14日号)

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