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辺野古新基地建設は争点にならない? 
政府がゆがめた名護市長選の構図

阿部岳|2022年1月14日9:59PM

今年、沖縄は日本復帰50年を迎える。本誌はこの1年をかけて沖縄のさまざまな現実に焦点をあて、深層にある問題を見つめるのと同時に、日本社会を問い直したいと考える。今年は沖縄にとって県知事選挙をはじめ、参院選挙、7市11町村の首長選挙、30市町村の議会議員選挙が予定される「選挙の年」でもある。皮切りに今月23日には、名護市長選挙と南城市長選挙が実施される。名護市は、政府が辺野古に新基地建設を強行したことで翻弄されつづけてきた自治体だ。そのことが民主主義に関わる重大な危機を引き起こしていることを、地元紙の記者が指摘する。

渡具知武豊氏(左)と岸本洋平氏。(写真撮影/阿部岳)

「国と県による係争が決着を見るまでは、これを見守る」。23日投開票の沖縄県名護市長選で、現職の渡具知武豊氏(60歳)はこう繰り返している。インタビューでもメモに目を落としながら、その線から一歩も踏み出さない。

 名護市辺野古にある米軍キャンプ・シュワブの沿岸では、新基地の埋め立て工事が着々と進む。4年前、自民、公明、維新の推薦を得て初当選した渡具知氏は賛否を明らかにしないまま、「見守り」続けている。

【政府のお膳立てが奏功】

 前回の選対資料にはこう明記されていた。「辺野古の『へ』の字も言わない」「オール沖縄側は辺野古移設を争点に掲げているが、同じ土俵に決して乗らない!」

 当時、新基地問題の代わりに前面に打ち出したのが、政府との太いパイプだった。選対資料は「あくまでも生活への豊かさ目線で」と、応援に入る国会議員らに指南していた。小泉進次郎氏ら人気者が次々に名護入りし、その通りに演説して回った。

 渡具知氏は政府からの米軍再編交付金を使って子ども医療費、学校給食費、保育料を無償化すると公約し、1期目ですべて実現。昨年12月に開いた女性部総決起大会では壇上の垂れ幕に「実現」の文字が誇らしげに並んだ。2期目のまちづくりに向けても、岸田文雄首相に面会して支援を直訴したとアピールしている。

 選対関係者は「前回は挑戦者の立場だから必死だった。今回はまだまだ運動が足りない」と語るが、成功体験には確かなものがある。

 前首相の菅義偉氏も昨年12月に沖縄入りし、新基地は「争点にならないと思っている」と、記者団に強調してみせた。官房長官と首相を務めた約9年間、沖縄政策を牛耳った菅氏は「沖縄問題はライフワーク」と宣言し、退任後も関与し続ける構えを見せている。

 渡具知氏が4年間、新基地問題にノータッチで済んだのは、ひとえに菅氏ら政府側がお膳立てしたからだった。

 たとえば渡具知氏の目玉公約の財源である米軍再編交付金は、基地受け入れに協力した自治体に支払われてきた。前任で新基地に反対した稲嶺進氏の時代、政府は交付を打ち切った。

 ところが、2018年の前回選挙の告示約1週間前。政府は突然、現職の稲嶺氏ではなく新人の渡具知氏が当選すれば交付できると言い始めた。渡具知氏は前述の通り新基地の賛否を明らかにしない戦略だったが、政府は「否定もしていないから」という理屈をひねり出した。財源の裏付けを得た渡具知氏に追い風が吹いた。当選の翌月には、とんとん拍子で交付が決まった。

 新基地工事を進めるにも、政府は渡具知氏の立場を傷つけないように細心の注意を払った。建設現場には、海の埋め立て工事で河口がふさがれる川がある。水路を切り替えて海に注ぐ出口を確保する工事は当初、名護市との協議が必要だと考えられ、前任の稲嶺氏は市長権限で阻止すると表明した。政府も一時、市の関与が必要ない切り替えルートを模索した。

 せっかく総力支援で誕生させた渡具知市政に協議を申し入れると、新基地を認めるかどうかの踏み絵を踏ませることになってしまう。そこで政府は協議が必要かどうかを市に照会し、必要ないと回答をもらった。そして市長選直前を避けて昨年10月に着工した。あうんの呼吸である。

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