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奨学金の名で若者から収奪する「日本学生支援機構」 
「繰り上げ一括請求」の欺瞞を暴く

2021年11月19日9:19PM

日本学生支援機構の実質的な本部機能を持つ東京の市谷事務所。旧「日本育英会」本部以来の古いビルだ。(撮影/岩本太郎)

【「ローン」としての奨学金】

「奨学金はローンである」とよく言われる。支援機構の海外向けの案内では「Scholarship Loans」(奨学金ローン)と説明されている。確かにローンだ。だがよくみると通常のローンとは違う。

 まず金銭消費貸借契約書という書類がない。あるのは借り入れの時の同意書、そして返済開始前の誓約書。契約に相当するものがあるとすれば、日本学生支援機構法と同施行令などの法令である。

 もうひとつの違いは、借り入れの際、資産や収入など返済能力の調査を不要としている点だ。通常のローンであれば無職の未成年者に何百万円も貸すことはできない。「教育の機会均等に寄与するため」の公的制度だからだろう。

 あえて3点目の違いを挙げるならば、「奨学金ローン」には監督や規制の仕組みがない。他のローンは貸金業法や銀行法のもと、金融庁や都道府県の監督下にある。貸金業登録や銀行業免許制度もある。業務に問題があれば行政処分、さらには登録・許可の取り消しを受ける。かたや「奨学金ローン」にはそれがない。

 ようするに支援機構の「奨学金ローン」はローンだが、普通のローンではない。本来なら「学生ローン」といった定義をつくるべきだろう。学生ローンを他のローンのように厳しく取り立ててよいものか、釈然としない。

【なぜ「全額請求」が可能か】

 冒頭で紹介したBさんへの取り立ての状況を詳しくみてみよう。

 裁判で請求された448万円のうち元本額は約420万円だ。だが、このうち、延滞した額は14カ月分にあたる約26万円にすぎない。それにもかかわらず420万円もの元本を一括で請求されたのは「返還期日未到来分」、つまり将来払う予定だったものを前倒しで取り立てられたからだ。「繰り上げ一括請求」と呼ばれる全額「貸しはがし」である。

 なぜこうした乱暴な取り立てができるのか。根拠について、熊谷弁護士の名前で書かれた訴状には次のように記載されている。

〈独立行政法人日本学生支援機構法施行令第5条5項の定めにより、割賦金の返還を怠った者に対しては、原告が指定する期日までに返還期日未到来分を含む返還未済額の全部を一括して返還させることができる〉

 日本学生支援機構法施行令5条5項。これが繰り上げ一括請求の根拠だという。そう聞けば、きまりなら仕方がないと納得するのが普通だろう。

 だが、ここにはからくりが隠されていた。訴状にある5条5項の説明は、重要な部分において正確さを欠いている。総務省行政管理局のホームページにある原文と比べると違いは明白だ。

 独立行政法人日本学生支援機構法施行令5条5項(原文)
 学資貸与金の貸与を受けた者が、支払能力があるにもかかわらず割賦金の返還を著しく怠ったと認められるときは、前各項の規定にかかわらず、その者は、機構の請求に基づき、その指定する日までに返還未済額の全部を返還しなければならない。

「支払能力があるにもかかわらず」――この重要な一節が、訴状の説明にはない。

 支払う能力があるのに払わない、そういう場合に限って前倒しで全額請求できる。それが5条5項の規定だったのだ。金がなくて払えない人には繰り上げ一括請求をしてはならない。当然だろう。金がない人に無審査で貸し付ける「教育の機会均等」のための制度だ。問答無用で取り立ててよいはずがない。

 言うまでもなく、Bさんが払えなくなったのは経済苦からだ。「支払能力」はない。ならば5条5項の適用はできないはずだ。だが現実に一括請求された。しかも、訴状には無条件で全額請求できるかのような紛らわしい説明がなされている。

 これはどういうことなのか。

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