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高齢者ワクチン接種「7月末完了」に根拠なし 
五輪意識の菅首相に自治体は強い不満

吉田啓志|2021年6月10日6:42PM

新型コロナウイルスのワクチン接種に訪れる人々=6月10日、東京・大手町の自衛隊東京大規模接種センターにて。(撮影/尹史承)

新型コロナウイルスワクチンの接種が本格化してきた。菅義偉首相は「7月末までに希望する高齢者に打ち終える」と約束し、そのために「1日100万回」の接種をすると宣言して退路を断った。しかし打ち手不足は解消できておらず、システムの障害も頻発している。依然、目標は遠い。

5月26日夕。国が東京・大手町に設けた自衛隊大規模接種センターの周囲に、接種に訪れた人々の100メートルに及ぶ列ができた。午後4時過ぎにシステムの通信障害が起き、1時間半にわたって受け付け不能になったのが原因だった。

立ったまま40分も待たされたという70代の男性は「最初は説明もなかった」と疲れた様子。開設初日の24日に会場を視察した菅首相は「接種の加速化という未知のことに挑戦する。何としてもやり遂げる」と意気込んだものの、急ごしらえの大規模接種をめぐっては予約が消えたり自治体の会場との二重予約が相次いだりと、早々からトラブルに見舞われている。

首相は4月23日、河野太郎行革担当相が「無理です」と引き留めるのを振り切って「高齢者接種の7月末完了」をぶち上げ、さらに5月7日に「1日100万回」を打ち出した。

だが「100万回」を達成できる根拠はない。現在、1日の接種は医療従事者も含め約60万回だ。また、すべての高齢者約3600万人に2回ずつ打つには7200万回の接種を要する。5月27日時点で高齢者への接種は約350万回に達したが、残り約6850万回を7月末までの65日間で終えるためには毎日105万回を打ち続けねばならない。予断を許さぬ状況に、最近首相と別件で会った政府高官は「首相の頭の中はワクチンで大半を占めていた」と苦笑い。

そんな首相は周辺に「オレはワクチンに懸けた」と漏らし、なりふり構わぬ手に出ている。4月21日には武田良太総務相を官邸に呼び「どんどんやらせろ」と発破をかけた。この時点で「7月末完了は可能」と答えていた自治体は全1741市区町村のうち1000程度。そこで首相は総務省職員に電話で前倒しを迫るよう指示した。地方交付税を握る同省の要請を蹴るのは難しい。「7月末」を了承した自治体は1カ月で92・8%に達した。

ただ「完了」の定義は自治体任せであいまいなまま。強引に予定変更を迫られた自治体側の不満は強く、5月12日時点で7月末完了率が全国最低だった秋田県の佐竹敬久知事は「総理の顔を立てろということだ」と皮肉を込めた。

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