考えるタネがここにある

週刊金曜日オンライン

  • YouTube
  • Twitter
  • Facebook

【タグ】

市民の一人ひとりが
望月衣塑子だ

阿部岳|2019年5月5日7:00AM

直径約2・4ミリの鉛の粒が、『朝日新聞』阪神支局(兵庫県西宮市)に展示されている。1987年の襲撃事件で、散弾銃から発射された。一つひとつは小さなその粒が記者1人を殺害し、言論を永久に封じた。

今、首相官邸が発する言葉の一つひとつがジャーナリズムを撃ち、衰弱させている。

2015年、フランスの風刺週刊紙『シャルリエブド』が武装テロリストに襲撃され、編集長ら12人が犠牲になった。世界中のジャーナリストと市民が「私はシャルリ」と連帯の言葉を語った。

そして今。私は望月衣塑子である。ジャーナリスト、市民の一人ひとりが望月衣塑子ではないか。

菅義偉官房長官は、記者会見で質問する『東京新聞』の望月衣塑子記者に対し、「あなたに答える必要はありません」と言った。国会では「取材じゃないと思いますよ。決め打ちですよ」と言った。誰になら答えるのか、どれを取材と認めるのか、権力が一方的に選別するという宣言である。

他方、首相官邸から内閣記者会への要請文は「問題意識の共有」を求めた。「メディア、政府の双方にとって有意義な形での」会見と続く文脈にも、「あなたがたも望月記者には手を焼いているでしょう」と、記者クラブを抱き込む意図がのぞく。

権力による同業者の排除を黙認し、自らは排除されないようにおもねるとしたら、権力を監視するジャーナリズムは死ぬ。職業人、プロフェッショナルならば闘う以外の選択肢はない。仕事の流儀、価値観の違いがあったとしても二の次である。存在意義と存立基盤そのものが揺さぶられている。

【タグ】

●この記事をシェアする

  • facebook
  • twitter
  • Hatena
  • google+
  • Line

電子版をアプリで読む

  • Download on the App Store
  • Google Playで手に入れよう

金曜日ちゃんねる

おすすめ書籍

書影

黒沼ユリ子の「おんじゅく日記」

ヴァイオリンの家から

黒沼ユリ子

発売日:2022/12/06

定価:1000円+税

書影

エシカルに暮らすための12条 地球市民として生きる知恵

古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)

発売日:2019/07/29

上へ