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緊急対談 
衆院選で問われる日本政治の新しい対決軸、
リベラル陣営のリアリズムとは
(山下芳生×中島岳志)

2017年10月14日4:40PM

「暴走政治」をリセットできない希望の党

山下 BSフジの討論番組で先日、希望の党の若狭勝さんと同席したんですよ。若狭さんは民進党から希望の党に移籍する人の選別係で、その基準は安保法制を容認すること、9条を含む憲法改定に反対しないことだと説明していました。小池さんはしきりに「リセット」と言うけれども、選別基準は安倍政権による暴走の最たるものです。それをリセットしないのなら、自民党の補完勢力でしかないじゃないかと指摘すると、若狭さんは「自民党の補完勢力を作るために希望の党を立ち上げたんじゃありません」と色をなして反論していましたが、説得力を感じられなかった。安倍自民党と小池希望の党の間には対立軸がない。

今年1月に共産党が党大会で打ち出した、日本の政治の新しい対決の軸である「自公とその補完勢力」対「野党と市民の共闘」の構図は、現在も同じだと思います。こうした構図に至る背景には、2015年に起きた安保法案廃案を求める市民運動が、野党間にあった壁を壊してくれたことがあります。野党は、初めは「充実した審議」で一致し、次は「(安保法案)成立阻止」で一致し、最後には「内閣不信任案を共同提出」というところまで向かっていった。強行採決された後も、安保法制廃止のうねりが起き、翌16年の参院選での野党共闘につながりました。

今回、その一翼を担っていた民進党が希望の党に吸収され、非常に混乱もしましたが、再び市民のみなさんが声を上げてくれる中で立憲民主党ができた。安保法制廃止と安倍9条改憲反対、立憲主義回復を貫く流れの中から新しい党が生まれ、復元力が発揮されたのは、この2年間の野党と市民の共闘の積み重ねがあったからこそだと思います。

中島 重要なのは、立憲主義を回復するという共通意識です。立憲主義は、「人間は不完全なので、権力も暴走する。だから、それに対して国民の側から縛りをかけないといけない」というもの。同時に、保守の立憲主義は、英国的な立憲主義の考え方と同じなのですが、基本的に国民が権力を縛っていて、この国民の中には死者が含まれていると考える。つまり、過去の多くの蓄積の中でさまざまな経験を積み重ねてきた人たちの思いというのが、現在の政府までを縛っていると。

この死者たちの積み重ねてきた歴史の上に現在の自分というものを捉えているので、英国人は今の人間が特権的に何かを明文化するということに対して慎重ですし、明文化できないと判断してきた。そのため、英国には単一の憲法典として成文化されたものはありません。その都度、マグナ=カルタ(注3)や権利の章典(注4)、慣習法や判例の積み重ねによって判断されてきた。

山下 日本の憲法にも、アジア・太平洋戦争で犠牲となった310万人の日本人と2000万人とも言われるアジアの人々の“死者の叫び”が込められていると思います。

雑誌「暮しの手帖」編集部が約50年前に読者から寄せられた投書を編纂した『戦争中の暮しの記録』という本があると知り、復刻版を取り寄せて読んでみました。そこには突然の召集で一家の大黒柱だった夫を戦地にとられ、幼子とともに残された妻の、「この苦しみを二度とくりかえされないようお願いしたいものです」と結ばれた手記や、焼夷弾の猛火の中を幼い弟と逃げるも、ついに両親には会えなかった姉の、「いつかは両親が訪ねてきてくれると信じていたかった」と記された手記など、人々の日常の暮らしが戦争によってどのように変えられてしまったかが、250頁にわたって記録されていた。

創刊者であり編集長だった花森安治さんは後書きに、「どの文章も、これを書きのこしておきたい、という切な気持ちから出ている。書かずにはいられない、そういう切っぱつまったものが、ほとんどの文章の裏に脈うっている」と書いています。

日本国憲法は、多くの日本人が持っていた「切な気持ち」の中から生まれ、歓迎され、定着し、そして今も力を発揮し続けている。

中島 若狭さんは希望の党設立前、新党の一番のテーゼは一院制にすることだと言っていました。ですが、国家意思を決めるのに時間がかかる二院制を取っているのは、死者からの私たちに対する歯止めなんです。これを簡単に崩壊させることはあってはならないし、安倍さんが議会内の慣習などを平気で破り、閣議決定によって憲法の解釈を変えていくやり方も見すごせない。この姿勢は、死者の経験値をないがしろにすることで、死者に対する冒涜です。

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