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緊急対談 
衆院選で問われる日本政治の新しい対決軸、
リベラル陣営のリアリズムとは
(山下芳生×中島岳志)

2017年10月14日4:40PM

非現実的な自民、希望、維新の主張

中島 自民党や希望の党の人たちは、リアリズムというものが日米安保にあると言うんですけども、これはまったくリアリズムを欠いている。冷静にリアリズムという観点に立つのであれば、これから10年、20年のスパンで考えるべきで、そこを見据えると、日米安保こそヤバい。米国のトランプさんが大統領選の時に、「在日米軍の経済的負担を日本が担わなければ、米軍を撤退させる」と言っていたのは米国人の本音で、さらに今は米国で日本は核武装すべきだという議論やデカップリング論(引き離し論)が非常に強い形で出てきている。

これはなぜかというと、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させると、防衛構想がかなり変わるからです。ICBMが飛んでくるとなると、米国も大きな被害を受けるので、北朝鮮の日本への攻撃に対する報復に慎重になる。集団的自衛権は割に合わなくなる。日本をサポートすることによって、ワシントンやニューヨークが核攻撃の対象となり、火の海になるかもしれない。

米国ではどんどん日米の切り離し論が現実味を帯びているんです。そうした時に、日本の安全保障はどうするのかというと、アジア諸国のアライアンス(連携)を強化しながら、アジアの国々となんとか緊張緩和を図っていくいくしかない。これがリアリズムだと思うんです。

山下 北朝鮮の核ミサイル問題をリアリズムで見ると、米朝間で軍事的緊張がエスカレートする中、最も懸念されるのは、当事者たちの意図にも反して偶発的な事態や計算違いによって軍事衝突が起こることです。このことはペリー元米国防長官も、ジェフリー・フェルトマン国連事務次長も指摘しています。これを避けるには米朝が直接対話をするしかない。もし戦争が起こればその時は核戦争ですから。そうなれば、安倍さんが言っている「国民の命と安全を守る」なんてことはできるはずがない。本当に「守る」ということに責任を持つのだったら、米朝の軍事衝突の危険をなくすことです。それには対話しかないんです。

同時に、米国も核保有国なので、北朝鮮に核放棄を説得しようがありません。やはり北朝鮮の問題を根本的に解決しようと思ったら、7月7日に採択された核兵器禁止条約を米国や日本が率先して批准すべきです。

中島 完全に同意します。さらに北朝鮮問題を考える上でも、原発は廃炉に決まっていると思います。ミサイルを撃ち込まれたら終わりですから。なぜそのリアリズムを軽視するのか。「保守」を掲げる人たちは、共産党が最終的には自衛隊廃止と言っているので国防問題について無責任だと言いますが、私はこの議論は違うと思います。共産党は即時の自衛隊廃止は謳っておらず、当面自衛隊というものは必要であるとしている。しかし長期的な理想的ビジョンとしては、それを縮小しながら廃止に持っていくんだと。そういう二段構えなわけです。

これは基本的に保守と同じ発想です。福田恆存さんは、現実的な防衛論を説く自分の超越的な観念には、絶対平和という観念があると言っている。哲学者カントの言う統整的理念と構成的理念で考えるとわかりやすいのですが、前者は、絶対平和、まったく武器のない世界など、おそらく人間が不完全である以上そう簡単には実現しないような理念で、後者は、現実的な政治の場面におけるマニュフェストのような一個一個の理念です。理念というものは二重の存在でなければ成立しない。共産党の理念はこの構造になっている。

山下 安倍さんが変えたがっている憲法9条も、悲惨な戦争への反省から生まれてきた人類社会が進むべき理想ですから、統整的理念ですよね。

中島 9条には、自衛隊の縛りをどう考えるのかという構成的理念も含まれるべきだと私は考えていますが、これを具体化するのは安倍さんのもとでではない。

山下 「安倍政権のもとでの憲法9条改悪に反対する」というのが、野党の党首合意で、市民連合ともそういう一点で野党共闘が再生されているわけです。今は一致する点を大事にし、相手のことをよく知り、相手の立場に立って考える、これが共闘だと思っています。

中島 その姿勢が基本的な民主主義であり保守的態度だと思います。日本が〈ローマ数字2〉の方向に向かってほしいです。

10月6日、東京都・共産党本部にて
写真・まとめ/渡部睦美(編集部)
※『週刊金曜日』10月13日号に加筆修正しました。

(注1)「保守本流」の政治家。吉田茂氏以来の旧自由党の流れを継ぐ自民党派閥の原点・宏池会の会長に1971年に就任。72年に田中角栄首相の外相として日中国交正常化を実現させた。
(注2)現在の平成研究会。田中(角栄)派である竹下登元首相や金丸信元自民党副総裁らが旗揚げした自民党内の派閥。
(注3)国王の権限を制限する内容などが盛り込まれた、立憲主義の出発点となる憲章。1215年制定。
(注4)1689年、名誉革命直後に制定された、王権の制限、議会の権限などを定めた文書。

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