静岡県内でのリニア着工、鈴木知事が「容認」表明 市民らは抗議
井澤宏明・ジャーナリスト|2026年9月7日10:12PM
静岡県の鈴木康友知事は7月7日に開かれた県議会全員協議会で「県自然環境保全条例に基づき、リニア中央新幹線工事にかかる自然環境保全協定をJR東海と18日に締結する」と述べ、県内工事開始を容認すると表明した。スピード感重視の県政を謳う知事のこの表明に対し、危機感を抱く住民は議場の内外で抗議の声を上げた。

鈴木知事が着工容認判断の理由の筆頭に挙げたのが、JR東海が5月から6月にかけて静岡市と大井川流域10市町で開いた「オープンハウス形式」の説明会だ。その成果について、7月1日に面会したJR東海の丹羽俊介社長や、説明会に同席した県職員から報告を受けた鈴木知事は「ご理解に至らない方々も一部いらっしゃったとのことではあるものの、全体として地域住民のみなさまの理解は進んだものと認識した」という。県はJR東海の説明会に「便乗」して民意をはかったことになる。
説明会は22回開かれ、来場者は延べ1137人。1回(6時間)あたり平均約50人しか来場していない。一方、市民団体「大井川の水を守る62万人運動」は6月29日、「スピード感重視ではなく、県民が納得するまでJR東海と対話を継続すること」などを求める知事あての署名2万1487筆、他団体も30日、署名計1万9607筆を提出したが、顧みられなかった。
説明会の実態が鈴木知事の認識とは大きくかけ離れていたことは本誌6月12日号で既報の通りだ。会場でJR東海社員と同席した県職員は、参加者の質問に誠実に答えるどころか、受け流していた。
川勝氏「地球倫理反する」
「知事、異議あり」。県議会で説明を終え一礼した知事に傍聴席からヤジが飛んだ。「それじゃあ南アルプスの自然は守れませんよ」
議長の制止にもひるまず「JR東海は何にも質問に答えてくれませんでしたよ」と続けた声の主は、市民団体「南アルプスとリニアを考える市民ネットワーク静岡」共同代表でクライマーの服部隆さん(73歳、焼津市在住)。説明会で「塩対応」に遭った当事者だ(前回記事参照)。議場から職員に連れ出された服部さんは報道陣に「説明会でいろいろ質問したんですけど、納得のいく答えは全然返ってこなかった。なのに『住民の理解をいただいた』と(知事が)言っているのは納得できない」と訴えた。
県庁玄関前でも「調査なしで工事はダメ」などと書かれたプラカードや旗を掲げた約70人の市民が、着工容認に抗議の声を上げた。
7月11日には市民ネット主催の緊急集会が静岡市内で開かれ約120人が参加。出席を求められた前知事の川勝平太氏から届いたメッセージが読み上げられた。
この中で川勝氏は「トンネル工事は南アルプスには『百害あって一利』なしです。JR東海の意思決定者は南アルプスのことをよく知らず、とんでもない誤りを犯しました。それは万死に値するほど誤った決定でした」と批判。「グローバルな現代の地球倫理にも反する蛮行」とも指弾し、「静岡県をルート上に入れた過ちをいさぎよく認める勇気を発揮されたい」と、改めてルート変更を求めた。
鈴木知事は「『不測の事態が生じた場合には、必要に応じて工事をいったん止め、原因の確認や対応を検討する』ことを協定に明記する」と胸を張るが、岐阜県瑞浪市大湫町で一昨年2月に発生したリニアトンネル湧水が原因の水枯れ、地盤沈下は2年以上たっても解決せず、工事は中断したままだ。
(『週刊金曜日』2026年7月17日号)
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