DNA型情報の捜査利用をめぐり法制化を求める声 警察任せの運用、人権侵害に警鐘
伊藤智章・「ナゴヤプレス」記者|2026年8月7日3:55PM
犯罪捜査に使われるDNA型情報の取り扱いについての適切な法整備を求める市民団体「DNA型情報の法制化を求める会」の結成総会が、6月13日に名古屋市内で開かれた。集会には法律家や市民ら約120人が参加。暴行事件で逮捕され、後に無罪判決を受けた元被告人のほか、被害者遺族など異なる立場の人々が「法制化が必要」という点で一致し、それぞれの思いを訴えた。

DNA型情報は取り扱いに厳格さが求められるが、現在の日本には捜査利用を直接規制する法律がなく、運用は事実上「警察任せ」になっている。国家公安委員会が定めた全9条の「DNA型記録取扱規則」があるものの、当事者の人権やプライバシー保護への配慮を義務付ける文言はない。近年はDNA型の登録数が殺人や強盗などの発生件数をはるかに上回るペースで増え続けており、軽犯罪の被疑者から強引に提供させるようなトラブルも相次いでいる。
会が結成されたきっかけは、同市の奥田恭正さん(69歳)が逮捕時に採取されたDNA型のデータ抹消を国に求めた裁判だ。奥田さんは2016年、自宅前のマンション建設への抗議活動中に暴行容疑で逮捕され、DNA型試料を「任意」提供させられた。その後、無罪が確定したもののデータは抹消されなかったため、国を提訴。24年に名古屋高裁で日本初となるデータ抹消を命じる判決を勝ち取った。判決は、無期限のデータ保持が「強い萎縮効果をもたらす」として法規制を求めた。総会で奥田さんは、「無罪判決が出てもデータを消してくれない。私の個人情報は国のものか」と憤り、いつでも当局に照合されかねない「犯罪者予備軍扱い」が続いた苦しみを明かした。
活用求める側からも発言
記念講演では、日本大学法学部の小山剛教授がドイツや韓国の例を紹介。両国では法律で対象を重要犯罪に限り、不起訴や無罪判決が出た場合などはデータを抹消する仕組みがある。裁判所や第三者機関が関与して警察の独走を防いでいるという。「日本ではデータを取ることが自己目的化している」と、小山教授は警鐘を鳴らした。
現在、国内の被疑者データベースの登録数は24年末時点で約185万件に達し、年間約14万件のペースで増加している。その半面、抹消されるのは被疑者死亡などの場合に限られ、年間3000件前後にとどまる。さらに昨年9月には佐賀県警によるDNA型鑑定の不正が発覚するなど、運用の不透明さが問題視されている。
集会には1999年に名古屋市で妻を殺害された高羽悟さん(70歳)も出席した。この事件では、愛知県警がDNA型を再捜査で照合した結果、発生から26年後に容疑者逮捕に至っている。
高羽さんは事件後、これまで計約2000万円を投じて、犯人の血痕が残るアパートの現場を保存し続けた。殺人事件被害者遺族の会「宙の会」の代表幹事も務め、捜査能力向上のためにDNAから推定年齢や顔の特徴などを引き出す技術の導入を訴える。プライバシー保護を重視する奥田さんとは立場を異にするが、「法律を作って、警察も安心して使えるようにしてほしい」と述べ、適正な捜査と人権保護を両立させる法制化の必要性を強く訴えた。
会は今後、署名運動もする予定。12月5日の会合では、佐賀県弁護士会の前会長が同県警の不正鑑定について報告する。
(『週刊金曜日』2026年7月10日号)
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