刑法性犯罪規定の再改正を要求 公訴時効の壁に阻まれる性暴力被害者の申告
小川たまか・ライター|2026年7月29日4:19PM
性犯罪に関する刑法規定は2017年と23年に大きな改正が行なわれている。17年の改正では「強姦罪」が「強制性交等罪」になり、量刑の下限が3年から5年に引き上げられた。ただ、当事者らが強く求めた「暴行・脅迫要件」の緩和・撤廃はなされず、当時13歳だった性交同意年齢の引き上げにも至らなかった。

23年の改正で「不同意性交等罪」が創設され、8項目の構成要件が明確化。性交同意年齢も16歳に引き上げられた(一部に年齢差要件は残る)。しかし公訴時効については、未成年時の被害は成人するまで時効の進行が停止するものの不同意性交(改正前は強制性交)が10年から15年、不同意わいせつ(同・強制わいせつ)が7年から12年などそれぞれ5年延長されただけで、課題が残っている。
これまでの性犯罪規定改正の実現に尽力してきた性被害当事者団体の一般社団法人Springは、被害を認識し訴えるまでに時間がかかる被害者の実態に即していないとして、公訴時効の点で刑法の再改正を求めている。6月18日には衆議院第一議員会館内で刑法性犯罪の公訴時効のさらなる見直しに向けた集会を開催。ドイツ、フランス、米国(ミシガン州)の識者も参加して海外の事例を学んだ。
海外では性犯罪の時効が日本より長く設定されている国もある。ドイツでは、未成年時の被害については被害者が30歳まで時効の進行が停止され、最長で50歳まで公訴提起が可能。フランスでは公訴時効を被害者が成人してから30年
としている。米国は州ごとに法律が異なるがミシガン州の場合は、未成年に対する性的挿入を伴う被害については公訴時効が完全撤廃されている。どの国も、児童に対する性虐待のニュースをきっかけに世論の後押しがあったという。
中山純子弁護士は、前回の改正で「5年延長」の根拠とされた内閣府「男女間における暴力に関する調査」(2020年版)について、そもそも被害を誰にも相談していない人が6割いたこと、被害を申告した人の中でも申告までに10年以上かかっている人が1割いたことを指摘。「5年は根拠がない」と訴えた。
「加害者の逃げ得」に
実父からの性虐待を実名で告発した塚原たえさん(一般社団法人PCASA JAPAN子どもの未来を守る会代表理事)の場合は、現在の法律を適用しても33歳で実父からの行為について時効が成立する。塚原さんは30代の頃はまだ「怖いとしか思えなかった」と振り返り、「父を恨んだり訴えたり、そういう状態にはなれなかった」と、時効が短すぎることの弊害を訴えた。
公訴時効制度の趣旨として、長い期間を経過すると社会や被害者自身の処罰感情が薄くなる「処罰感情の希薄化」があるとされるが、ドイツ連邦児童性的虐待独立調査委員会委員、マティアス・カッチュさんは「被害感情は時間の経過によって消えるものではない」、塚原さんは「加害者の逃げ得にしかならない」と話す。
「被害に遭ったらすぐに申告するはず」という「常識」は、性暴力には当てはまらない。社会や家庭内で最も弱い立場におかれた者(つまり女性や子ども)が対象となりやすい性暴力は、家族や周囲との関係から声を上げにくく、また被害を理解するまでの時間もかかる。こうした被害者の視点は長い間、法に反映されてこなかった。
前回改正では、5年後を目処に再改正の必要性について検討し、「検討が実証的なものとなるよう、性的な被害を申告することの困難さなどについて、必要な調査を行う」などの附則がついている。被害当事者の視点を調査し法に反映させた海外の事例に学び、日本でも調査と議論を進めるべきだ。
(『週刊金曜日』2026年7月3日号)
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