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亡霊の如く蘇る「メディア規制」 報道機関も罰則対象の「個人情報保護法」改正案が衆院通過
瀬下美和・ジャーナリスト|2026年6月10日7:40PM
数々の重要法案の陰で高市早苗政権がメディア規制立法を着々と進めている。5月26日に衆議院で可決され、参議院に送られた個人情報保護法の改正案である。25年前、〝メディア規制三法〟の一つとして激しい反対運動の的となり、成立後も内包されていた危うさが、時を経て亡霊のように蘇ってきたのだ。
「改正案で新たに設けられた第180条に問題がある」と指摘するのは、情報法制研究所副理事長の高木浩光氏だ。「25年前には個人情報の『適正な取得』を努力規定とすることすら見送られたのに、今回はさらに一歩踏み込んだ処罰化が盛り込まれた。しかも、報道機関への適用除外規定が罰則の除外に及ばないため、記者が情報を取得しただけで刑事罰対象となる可能性がある。問題の深刻さは桁違いだ」。
〝メディア規制三法〟とは何か。1999年から2000年代初頭にかけて当時の政府・与党自民党が国会提出をめざした「個人情報保護法案」「人権擁護法案」「青少年有害社会環境対策基本法案」の総称だ。三法案とも「国民の知る権利」や「表現の自由」を縛りかねないとの意見が噴出したが、このうち唯一、修正を重ねながらも03年に成立したのが個人情報保護法だった。しかし15年の同法改正で「3年ごとの見直し」規定が加わったことから、葬り去られたはずの規制が再び現れたのだ。
「新180条は詐欺行為等により個人情報を不正に取得する行為に対する罰則の実現で、一見すると順当に見える」と高木氏は言う。「だが条文に『名宛人』の定めがない。個人情報取扱事業者やデータベースを構築したり運営や管理する者に限らず、報道機関だろうと一般の人だろうと、人を欺いて情報を取得しただけで直罰対象となってしまう」。
潜入取材も不可能
記憶に新しいところでは、参政党に潜入して党員として活動したジャーナリストが今年2月に体験ルポを週刊誌で発表した。このジャーナリストは取材目的であることは伏せ、筆名とは異なる名前で入党していた。まさに人を欺いたケースである。このまま法改正された場合、こうした潜入取材や体験ルポの公表、政治家のオフレコ発言の報道すらできなくなる。
改正案をめぐっては日本弁護士連合会(日弁連)も繰り返し懸念を表明している。24年12月19日付意見書では「情報窃盗を原則として刑罰の対象としない現行法体系を大きく変更する可能性があり」と指摘している。
同意見書をまとめた日弁連消費者問題対策委員会の板倉陽一郎弁護士は「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)や仮想通貨取引、投資詐欺など、SNSや秘匿性の高い通信アプリを利用した新しいスタイルの犯罪を止めたいとの狙いは理解できる」と語る一方で、「『損害を加える目的』があっても名誉毀損罪では違法性阻却事由があるが本条にはない。『欺く』と言われかねない際どい取材も必要な場合もあるだろう。報道機関の適用除外を明確にしなければ萎縮効果を招く」と懸念を表明する。
時に企業や公権力の深部に入り込み、隠された事実を取得して追及する。そうした取材は、相手側にとって確かに自らを欺く〝騙し〟だろう。しかし、ジャーナリズムの使命とは第一に国民の代表として真実を伝えることである。今回の改正案は深刻なメディア規制への道を開くことになるだろう。
(『週刊金曜日』2026年6月5日号)
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