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死亡事故受け「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」は潜水調査を1年保留に 今後は政府交渉に注力

本田雅和・ジャーナリスト|2026年6月2日6:55PM


 山口県宇部市の海底炭鉱で戦時中に起きた水没事故で、朝鮮半島から強制連行され、違法労働を強いられていた136人はじめ183人が生き埋めのまま、放置されてきた問題で、遺骨を発掘・収集してきた市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」が5月23日、地元で総会を開く。遺骨発掘のための潜水中に死亡した台湾人ダイバーの事故を深刻にとらえ、潜水調査再開は議論も含めて「保留」=中断・自粛する理事会方針を決める。

2026年度活動方針を説明する上田慶司・刻む会事務局長(右端)と井上洋子代表(右から2人目)ら。伊左治佳孝ダイバー(同3人目)も同席。4月30日、衆議院第二議員会館で。(撮影/本田雅和)

 2月6日に国際的なダイバー集団の協力で2体目の頭蓋骨を収容したが、7日に潜水に入ったベテランの台湾人ダイバー、ウェイ・スーさん(57歳)が調査開始前に背負ったタンクの吸入事故で酸素過多状態のまま痙攣を起こして死亡した。刻む会はこの事故について「炭鉱内の安全性とは別問題」との認識ながら、死亡事故を重大視して議論を重ね、日朝韓の戦時中の水没事故の遺族や台湾のスーさんの遺族、支援者市民の意見などを踏まえ、今回の結論に達したという。

DNA鑑定、今も未着手

 そもそも潜水調査は水没事故の遺骨を発掘・収集し、日朝韓の遺族に返還する目的で刻む会が伊左治佳孝ダイバーらに依頼した。DNA鑑定は日韓の共同鑑定が合意され、韓国側は前向きだ。が、日本側は警察庁が山口県警宇部署と進めるとしながら、遅々として進んでいない。外務省も早急に進めると言うばかりだが、「外交交渉上の秘密」を盾に詳細は一切語らず。刻む会が発掘・提出した遺骨は今も県警の「冷蔵庫に保管」されたままで、まったく進展していない。

 それでも今年1月の日韓首脳会談で高市早苗首相が「日韓間の調整が進んでいる」と発言。刻む会も「民間主導の潜水調査がなければ実現できなかった事」「収容場所の近くに遺骨が集積している可能性を主張できるのは刻む会が支援者とともに安全対策に傾注してきた結果」などと明言。スーさんの遺族は「本人は人々の力になりたいとの強い思いで潜水に参加した。安全性を確保して継続して」と希望している。伊左治さんも「自分は毎回遺書を書いて臨んでいる。危険だから止めるというのは納得できない」とし、地元の支援ダイバーらも同意見だった。

遺族の懸念払拭できず

 それでも刻む会内部には「新たな死者を出した責任は免れない」「2人目の死者が出たら存続できない」「もともと政府にやらせるために始めたこと」との懸念が根強く、韓国の遺族も「われわれが遺骨を見つけてほしいと言って死者が出て衝撃を受けている。再開は時期尚早」「政府が安全に責任をもたないのは卑怯だ」などの反対意見が目立った。

 刻む会では、さまざまな意見が出そろったのをふまえ「潜水調査再開の可否の議論を1年間、保留とすることを決定した」。今後1年間は「政府交渉に注力し、現場近くの『平和公園』としての整備・保存やピーヤ(海中坑道から海上に突き出た排気・排水筒)の補強なども検討していく。1年後の議論再開時点で遺族が反対の意向の場合は再開は行なわないことになる」と上田慶司事務局長は語る。

 判断の基準はあくまで「遺族の考えを最重視する」だ。

(『週刊金曜日』2026年5月22日号)

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