〈憲法は日本人だけのもの?〉崔善愛
崔善愛・『週刊金曜日』編集委員|2026年4月30日5:48PM

「わたしの母は中国のハルビンで育ち、入植者だった祖父は敗戦時に殺されました。母の弟は、長崎の原爆で即死でした。軍医だった父方の伯父は中国で生きている捕虜の解剖をしたと、わたしにもらしました。戦争で人間は残酷です」
東京都立高校元教員の池田幹子さん(78歳)が4月8日、「平和憲法を守るための緊急アクション」の呼びかけで国会前に集まった約3万人を前に、マイクをにぎった。音楽教員として学校の式典で「君が代」の伴奏を拒否し、裁判で「思想・良心の自由」を訴えた人だ。彼女はなぜ「君が代」をうたえないのか。
大人だけでなく子どもたちも、自分の考えや疑問を口にすることができなかった時代。「思想統制と戦争はセットだった」。だからこそ、「今の憲法の『思想・良心の自由』『表現の自由』は、9条の『戦争放棄』とともに平和憲法の要です」と池田さんは言う。
スパイ防止法、国旗損壊罪の制定を高市早苗政権は進めるが、それが社会に何をもたらすのか。国家の戦争責任を問う人物をあぶりだし、まるで犯罪者のように孤立させるのか。
「君が代」をうたわなければ処分するという教育委員会を相手どり闘いつづける教員らに対して、社会の視線は冷たい。その視線に耐えながらもなお、教員らは踏ん張っている。
ファシズムへの道は、高市首相やトランプ米大統領の強引さだけでなく、「普通の人びと」の無関心と冷たさに支えられ、進められてゆく。
池田さんとわたしは20年前、「君が代」問題を通して知り合った。そんななかで、「君が代」に抗う教員らとともに、音楽のよろこびを取り戻したいと「コンサート・自由な風の歌」を毎年、開催してきた。コンサートでは林光作曲「日本国憲法・前文」「第9条」をうたいつづけている。
ある日、池田さんから「崔さん、『日本国憲法・前文』をうたうとき、『国民』という言葉が崔さんたち外国人を排除していないか気になっています。それでも一緒に演奏してもらっていいのでしょうか」と言葉をかけられた。
憲法は日本人だけのものなのか。わたしがずっと抱いていた疑問を日本人から聞かれた、初めてのことだった。
4月17日、与党は改憲に向け、条文起草協議会を開いた。なぜ人間は戦争に突き進んできたのか。過去の歴史が実感として、迫ってくる。
(『週刊金曜日』2026年4月24日号)
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