イラン戦争は「TACO」に 内田樹
内田樹・思想家|2026年4月14日5:01PM

イラン戦争の状況が日替わりなので、この原稿が誌面に載る時には情勢がまた変わっているかもしれない。その場合はご海容願いたい。
少し前にトランプはホルムズ海峡を開放しなければ、イラン国内のインフラを攻撃すると脅迫した。その後二度攻撃を延期した。攻撃があれば、イランも報復を宣言しているので、戦争が泥沼化する可能性がある。米国はアフガニスタン、イラクで味わった長期戦の悪夢をまた味わうことになる。
トランプにどんな「出口」があるだろうか。このまま戦争をだらだら続け、長期戦になれば、MAGAはトランプを見限るだろう。そうなると、中間選挙で共和党は大敗を喫し、連邦議会でトランプの弾劾訴追決議がなされて、大統領の座を追われる可能性が出てくる。そうなると、たぶんトランプは刑務所に送られる。それだけは避けたい。
カーグ島への地上軍派遣も「選択肢としてはある」とトランプは言ったが、実行は難しい。上陸作戦を実行するにはホルムズ海峡を通過しなければならない。当然、イラン軍の砲火を潜り抜けなければならない。「根性」で突破しようとすれば、米軍は大量の死者を出すことになるだろう。リスクを避けるためには、周辺のイラン軍基地を事前に無力化しておく必要があるが、ホルムズ海峡を射程に収めるイラン国内のミサイルをすべて破壊することが可能だろうか。私は軍事の素人なので詳しいことはわからないが、「それができるなら、もう戦争は終わっている」というくらいのことはわかる。
最悪のシナリオとして、核ミサイルを撃ち込んでイランを焦土にしておいて「イランは二度と核を持つことはできなくなった。米国は救われた」と勝利宣言をすることも理論上は可能である。でも、そんなことをすれば、以後米国は全世界から「世界最強のならず者国家」とみなされ、同盟国の多くは「米国抜きの軍事同盟、米国抜きの経済共同体」の構築をただちに開始するだろう。
もちろんトランプの靴を舐めてでも米国の「傘の下」で生き延びようとする指導者もいるだろう。だが、それはアルゼンチンのミレイ大統領や日本の高市早苗首相ら少数にとどまるだろうし、それらの国々も米国の食い物にされ続けることに耐え切れず、いずれ米国の利己的な行動へ報復する機会を待ち望むようになると思う。
私の予測では、この戦争はたぶんTACO(Trump Always Chickens Out〈トランプはいつも最後には腰砕けになる〉)で終わると思う。「私はイランの指導部と素晴らしいディールをした。この戦争で米国は歴史的勝利を収めた」という大噓をトランプはつくはずである。
もちろん米国の世論がそんなでたらめを受け入れるとは思わないけれど、戦争が長期化するよりはトランプが「腰砕け」になった方が米国にとっては利益が多い。だから、世論の怒りは戦争が泥沼化した場合よりも穏やかなものになるかもしれない。
あるいはトランプは「次はキューバだ、メキシコだ、グリーンランドだ」と次々に軍事的侵攻の目先の標的を替えて、米国民の「領土欲」を搔き立てて自分への批判を避ける作戦に出るかもしれない。
連続的に新しい問題を起こして、メディアや世論の注意を分散させる手法を「洪水作戦」と言う。ホワイトハウスの軍師スティーブン・ミラーの得意技である。今度もこれで話をごまかすつもりだろう。
いずれにせよ日本にとっての喫緊の外交課題は「いつトランプと手を切るか」である。誰も言わないようなので今のうちに私が言っておく。
(『週刊金曜日』2026年4月10日号)
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