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「米国の病」とその原因 内田樹
内田樹|2026年4月6日8:07PM

中高生を対象にしたオンライン授業をしている。毎回課題を出す。今回の課題は「トランプ政権のインサイダーになったつもりで、米国がこれから何をするつもりか想像力を発揮して書いてください」というものだった。
J・D・ヴァンスやイーロン・マスクやスティーブン・ミラーの「気持ちになって」米国の未来を構想するのである。自分の意見は書かなくていい。他人の脳内を想像するだけだから、そもそも正解というものがない。採点も査定もしようがない。
そういう条件なら子どもたちも自由奔放に想像力を発揮してくれるだろうと思ったのだが、なかなか思いどおりにはゆかない。グリーンランドやパナマを占領するとか、NATOを脱退するという以上先には子どもたちの想像は進まなかった。仕方がないので、私が子どもたちに「お手本」をお示しすることにした。
トランプ政権がこのまま暴走を続けた場合に何が起きるか。国内的には「内戦」、国際的には「核戦争」。これが私にとっては「想像力を暴走させた場合の限界」である。さすがにそれ以上先は思いつかない。
その授業をしたすぐ後に米国とイスラエルのイラン侵攻が起きた。これは私も想像していなかった。トランプは中国とのG2体制の構築を最優先しているはずだから、中南米やグリーンランドに対する領土的野心は剥き出しにするだろうけれども、中東と東アジアからは「撤兵」するはずだと私は思っていた。イランと戦争なんかしても、合理的に考えて、米国にとって「いいこと」は何一つない。ということは、トランプは「合理的に考えないで」行動したということになる。どういう脳内妄想に駆動されたのだろう。
たぶん取り巻きの誰かが「イランのイスラム共和国は民主化を求める市民運動でもう倒壊寸前ですから、ちょっと軍事的に揺さぶったら、たちまち政権交代して夢にまで見た親米政権ができますよ」とささやいたのだと思う。侵攻直後のステートメントで「イラン革命から47年」という言い方をトランプはした。パーレビ国王がエジプトに逃亡して、イランの親米政権が瓦解した日こそ、米国が立ち戻るべき「歴史的起点」だとトランプは思っていたのだろう。
でも、戦争を始めてみたら話が違っていた。親米傀儡政権などできる気配もない。米国はアフガニスタンで20年、イラクで8年海外での戦争にコミットしたが、ついに親米政権はできなかった。むしろ戦争によって米国は敵を増やし、国力と威信を失い、グローバルリーダーの地位から転落した。同じ失敗をトランプもまた繰り返すことになるのだろうか。
これはもう「米国の病」と言ってよいだろう。病因の一つは日本だと私は思う。「軍事的に徹底的に敗北した国は忠実な従属国に変わる」という成功体験を米国に刷り込んだのは間違いなく日本である。この成功体験に居着いている限り、米国はこれからも海外侵攻を繰り返し、属国化に繰り返し失敗するだろう。
だから、米国がこの成功体験を忘れて、帝国主義の夢から醒めるためには、日本が「従属国」でも「傀儡政権」でもないということを米国に教えることが最も効果的であると私は思う。
米国と対等の同盟国になることは日本にとってそれほど難しい外交的課題だと私は思わない。それができないのは米国の属国であることの代償として「代官」の地位を保全された政治家たちが自己保身のために「独立」を妨害しているからである。代官の地位は自国の主権と引き換えにしても良いほど居心地がよいのだろうか。
(『週刊金曜日』2026年3月27日号)
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