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〈中国、韓国との対話を〉内田樹

内田樹・思想家|2026年2月10日7:07PM

内田樹・思想家。(撮影/編集部)

 先日、中国共産党の機関紙『環球時報』から取材を受けた。高市早苗首相発言について訊かれた。「台湾有事」についての高市発言は日本政府の従来の方針から大きく逸脱しており、首相は発言を撤回し、責任をとって辞職すべきだとこれまで国内の媒体に書いたまま答えた。その記事が掲載されたら「ネットで大炎上している」と教えられた。きっと「媚中派」と呼ばれているのだろう。

 そして中国のYouTuberからオンライン対談のオファーも来た。これまで何人もの日本の言論人とのコンタクトを試みてきたのだけれど、誰からも反応がなかったそうである。メールをもらってすぐに返信したら「こんなに早く反応してくれたのはあなたが初めてです」と驚かれた。

 そう聴いてむしろ私の方が驚いた。中国の読者・視聴者に向けて直接発信できる機会を提供されたのに、日本の言論人はどうやらその機会を活用していないらしい。

 私は別に中国でそれほど名が知られた人間ではない。数冊翻訳が出ている程度である。そんなところにまで手を広げないと中国のメディアに登場して政治的発言をする日本人がいないというのは問題ではないか。日中のチャンネルはそこまで細くなっているのである。

 先日、韓国から3人の日本研究者が凱風館を訪れた。日韓関係をめぐるシンポジウムのために来日したのだが、用事が終わりオフを利用して在野の研究者である私を訪ねてきたのである。高市政権の評価と東アジアの安全保障についての見通しを訊かれたので、私は持論の「日韓連携論」を語った。

 西半球に軍事力を集中しようとする米国が東アジアから軍を撤収して、中国の進出抑止という軍事的タスクを日韓に丸投げするというシナリオはかなり現実性が高くなってきた。その時、駐留米軍が去り、米国との同盟関係を当てにできなくなった日韓には、連携して「米中のはざま」で生き延びるしか道がない。そういう話である。この欄にも前に書いた。日韓が同盟すると、人口1億7000万人。GDP世界3位、軍事力世界4位の巨大な「圏」ができる。この「日韓連邦」は一国二制度だが、外交・安全保障については単一の政治単位として行動する。ヒトもモノも資本も自由に行き来する。「日韓連邦」は米中と等距離外交を展開し、どことも軍事同盟を結ばない。北東アジアに巨大な安全保障上の緩衝帯ができる。

 中国には国境を接する国がロシア、インド、モンゴル、ベトナム、パキスタンなど14カ国ある。それらの国々の多くと中国は潜在的な緊張関係にある。だから、国境管理が中国にとっては最優先の外交課題となる。日本と韓国は、中国とは「国境線を共有しない隣国」である。だから、現状のままできるだけ安定的な関係を保ち、日韓が中国にとって安全保障上の変数にならないことを中国政府は望んでいる。これは私に会いに来たソウル大学の先生が中国共産党幹部から直接聴いた言葉として教えてくれた。そうだろうと思う。中国は伝統的に西へ向かう趨向性は強いけれども、東海には興味を示さない。中華的なコスモロジーにおいて、西は「気を許せばすぐに侵攻してくる異族の地」だが、東は「わりと安定的に朝貢してくる辺境」である。むろん「程度の差」に過ぎないのだが、それでも有意な差ではある。

 そんな話をしたら、次は韓国に来て日韓連携について話してほしいと言われた。うれしいオファーだが、私のような門外漢に声がかかるというのは、日本の外交専門家たちの隣邦に対する発信力が弱いということである。それでよいのか。

(『週刊金曜日』2026年1月30日号)

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