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〈線のこちら側〉想田和弘

想田和弘・『週刊金曜日』編集委員|2026年2月10日5:52PM

想田和弘・『週刊金曜日』編集委員。

『女性の休日』(2024年、パメラ・ホーガン監督)というドキュメンタリー映画を観た。1975年10月24日、アイスランドの女性の9割が、家事も仕事も一斉に休んだ社会運動についての映画である。その大規模な“ストライキ”によって、女性なしでは社会が回らぬことが可視化され、男性中心の社会がガラリと変わっていく。その結果、現在アイスランドは世界で最もジェンダー平等が進んだ国だと言われるに至っている。

 映画で印象的だったのは、みんな表情が明るく、楽しそうなことだ。中でも興味深かったのは、この運動を「ストライキ」と呼ぼうとする主要メンバーに対して、左派を連想させる言葉に抵抗のある女性たちから「それでは参加できない」と異論が出た場面だ。そのとき、杖をついた高齢の女性がおもむろに壇上へ登り、さらりと提案する。

「『休日』と呼んだらいいじゃないの」

 そして結局その案が採用されて、10月24日は「女性の休日」と呼ばれるようになる。そしてムーブメントは大成功する。

 これには考えさせられた。あのとき、もし主要メンバーが「ストライキ」という言葉にこだわり意見を押し通していたとしたら、9割もの女性が参加していただろうか? きっと運動は分裂し、あれほどの威力は発揮していなかったであろう。

 思い出したのは、ユーゴスラヴィアのミロシェヴィッチ大統領を非暴力抵抗で失脚させたオトポール!の指導者スルジャ・ポポヴィッチ氏が言っていたことである。すなわち、非暴力抵抗運動の唯一の武器は「人数」だということだ。スルジャさんたちは運動の目標を定める際に、紙に1本の線を引いて検討したという。この「線」のこちら側には何人の人が味方し、参加してくれるか? そして相手側には何人が参加する? もしこちら側の人数が相手側の人数を圧倒するなら、運動は成功する。そうでなければ失敗だ。

 折しも、日本は衆議院選挙である。立憲民主党と公明党が、新党「中道改革連合」を作った。軍拡やスパイ防止法、外国人排斥政策など、日本の全体主義化に突き進む自維政権を止めるには、民主主義の継続を望む「線のこちら側」を増やすしかない。新党が安保法制や原発再稼働を容認していることには、僕は全く賛成できないが、最低でも現状維持を目指すなら、これしかないのではないか。少なくとも、「線のこちら側」の内部で罵り合っている場合ではない。

(『週刊金曜日』2026年2月6日号)

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