リニア工事「水」問題でJR東海が静岡県に「永久補償」も市長らは不信の声
井澤宏明・ジャーナリスト|2026年2月10日6:38PM
ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)に指定されている南アルプスを貫くリニア中央新幹線の長大トンネル(全長約25キロ)掘削により大井川流域の水が減った場合、JR東海が永久に補償することを約束する確認書の締結式が1月24日、静岡県庁で行なわれた。

確認書には、トンネル工事により大井川流域の水利用への影響が生じた場合、JR東海は①水利用継続に向けた措置を講じ、対応が困難な場合は費用負担などの補償を行なう②補償の請求期限や対象期間を定めない③因果関係の立証を大井川流域や県に求めず、専門家の見解を得て速やかに調査を行なう④工事の影響や対策を国土交通省が関与するモニタリング体制で確認、国交省指導の下、対策を講じる――ことが盛り込まれた。
締結式には鈴木康友知事とJR東海の丹羽俊介社長、立会人の水嶋智・国土交通事務次官が出席。「流域のみなさんのご不安、ご懸念を払拭するような形で締結できたことは本当に良かった」と成果を誇った鈴木知事とは対照的に、流域首長からはJR東海や国交省への根強い不信の声が漏れた。
「われわれはいつまでも市長をやっているわけではないし、しっかりと文書に残して、後世の人たちにもわかるようにしていくよう、ずっと言ってきた」と染谷絹代・島田市長。長谷川寛彦・菊川市長は「百年後、二百年後、三百年後、この地域にずっと人が住み続けるには水が必要。その時にはJR東海さんだってあるかどうか。国の関与が欲しいのではないかということで、今日(の確認書で)実現できた」と、国を巻き込むことが欠かせなかった理由を説明した。
「この事業はJR東海の事業だが、(南)アルプス直下にルートを認可したのは国なので、最終的に国の責任はまぬがれない」。国の責任をずばりと指摘したのは田村典彦・吉田町長だ。背景には「最下流で、大井川の地下水に100%依存して生きている町」(田村町長)という深刻な事情がある。
東京農業大学出身の北村正平・藤枝市長は「水がいったん少なくなったりなくなったりしたら戻らない。補償なんて考えられない。お金では解決できない」と確認書の実効性への疑問を口にした。
他地区の問題にも影響か
その疑問は根拠のないことではない。岐阜県瑞浪市では2024年2月以降、リニアトンネル掘削による水枯れや地盤沈下が発生。2年たっても水は戻らず、慣れない水道水に切り替えを迫られた住民は不安な生活を強いられている。
岐阜県の水枯れについてJR東海は工事との因果関係を認めたが、山梨実験線や愛知県春日井市などリニア沿線各地では因果関係を認めていない。また、補償期間も1984年に旧建設事務次官が通知した「事務処理要領」に基づき、生活用水は最大30年などと限っている。流域首長の意向をくんだ確認書は「大井川の水を守る62万人運動」など市民運動の一定の成果ともいえ、沿線住民がJR東海にこれまでの対応の見直しを迫る「武器」になる可能性がある。
今回の締結式をマスコミは「静岡工区着工 大きく前進」と持ち上げたが、事はそう簡単ではない。県の有識者会議「専門部会」では、昨年になってようやくJR東海が着手した大井川上流の一部の沢の調査の結果、トンネル掘削により多くの沢で水が減ったり枯れたりして、希少生物が死滅する恐れが明らかになったばかりだ。
(『週刊金曜日』2026年2月6日号)
※定期購読はこちらをクリック







