「帰国事業」訴訟、北朝鮮への賠償命令認めるか? 判決は1月26日
北野隆一・『朝日新聞』記者|2026年1月6日6:04PM
日本の裁判所が、北朝鮮政府に損害賠償を命じる判断を下すのか。原告側が「国連報告書でも紹介され、注目を集めている」と意義づける裁判が開かれた。
原告は1959~84年に在日朝鮮人ら約9万3000人が北朝鮮に渡った「帰国事業」(帰還事業、北送事業とも呼ばれる)で渡航後、北朝鮮から脱出し日本に戻った脱北者ら。北朝鮮で過酷な生活を強いられ、人権を侵害されたとして、北朝鮮政府を相手取り1人あたり1億円の損害賠償を求めて2018年に提訴した。東京高裁の差し戻し判決を受けた第1回口頭弁論が2025年10月29日に東京地裁(神野泰一裁判長)で開かれ結審した。判決は1月26日に言い渡される。
当初5人いた原告のうち、高政美さんは23年2月に62歳で死去。24年2月には石川学さんが65歳で亡くなった。石川さんの裁判は遺族が引き継いだが、高さんには承継者がおらず、原告は4人となっている。
北朝鮮政府を被告とする異例の裁判は、当初から被告側が欠席のまま審理が進んだ。「主権国家に他国の裁判権は及ばない」とする国際慣習法上の「主権免除」原則は、一審の東京地裁、二審の東京高裁判決とも未承認国である北朝鮮には適用されないと判断した。
東京高裁は23年10月の控訴審判決で「日本の裁判所に管轄権がある」と判断。帰国事業により北朝鮮政府が「事実と異なる情報を流布して北朝鮮への帰還を呼びかけて(原告らを)渡航させ、出国を許さず、過酷な状況で長期間の生活を余儀なくさせた」と認め、原告らにとっては「人生を奪われるという損害が生じた」と判断。訴えを退けた22年3月の一審・東京地裁判決を取り消し、審理を地裁に差し戻した(本誌23年11月24日号既報)。
「被害いまだ終わらず」
差し戻し審で原告側は原告本人たちの話を直接聞いてほしいと地裁に求めたが、認められなかった。代わりに福田健治弁護士ら代理人が法廷に立ち、原告4人が北朝鮮で経験した差別や貧困、飢餓や権利の抑圧などの被害について説明。「原告の人生損害とは単なる苦痛や困窮ではなく、人生を自分で決める権利と人生の可能性を、北朝鮮政府は奪った」と主張した。
原告側は23年の高裁判決が、北朝鮮の人権状況を調べる国連の特別報告者によって24年9月、国連総会に提出された報告書に盛り込まれたことに言及。「北朝鮮政府が人権侵害の責任を果たさない以上、各国政府には被害者に対する賠償の権利を実現する義務があると指摘されている」と内容を紹介した。「国家の組織的な欺罔行為と、大規模かつ継続的な人権侵害という歴史的不正義に対し、日本の司法の判断が問われている」と裁判官に語りかけた。
代理人は「被害はいまだ終わっていない」として、原告の川崎栄子さん(83歳)や斎藤博子さん(84歳)が脱北後、北朝鮮に残した家族と会えないうえ、新型コロナウイルスの感染が拡大した20年以降は連絡もとれず、安否もわからない状況だと明かした。原告の思いについて「訴訟により家族を危険にさらすのではないかと苦悩したが、生き残った者として真実を語る責務がある」と代弁した。
裁判後の集会で川崎さんは「明日にも北朝鮮との行き来が実現しないと、私は家族に会えない」と強調。判決を控えた今も「先が見通せず、心はちっとも晴れません」と訴えた。
(『週刊金曜日』2025年11月21日号を一部修正)
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