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「日韓連携」を考えるとき 内田樹

内田樹・思想家|2025年12月25日5:47PM

内田樹(うちだ たつる)・思想家。

『文化日報』という韓国の新聞の取材があり、「日韓連携」の可能性について訊かれた。

「どうすれば両国の和解と協力が成り立つのか? 成り立つとすれば、それはどこから始まるのか?」というのが最初の問いだった。

 単独の日韓関係というものは存在しないと私は思っている。基本単位は「米日韓」の三国関係である。変数が三つあるから計算が難しい。計算が難しい場合は知性の働きを向上させて、いくつものシナリオを検討するのがふつうだが、怠け者は変数を消し、話を簡単にして知的負荷を軽減しようとする。

 少なくとも日本人はこの問題については「怠け者であることを宿命づけられている」と私は思っている。米国が絡んだ瞬間に外交について思考停止に陥るのである。

 米国は日本人の頭の中では「定数」であって、決して変数とみなされることがない。「日米同盟基軸」というのは、米国の政策がどのように変わっても、日本はつねにそれに追随するという意味である。米国は「日本がどうすればいいかを決定する宗主国」という「定数」的地位を動くことがない。そういう設定にしておけば変数が一つ減って、知的負荷は軽減する。そういう思考停止に戦後80年間日本人は慣れ続けてきた。

 でも、いま米日韓関係は変わりつつある。米国が東アジアから撤収する可能性が高まったからである。いまの米にはもう世界秩序を制定し、管理するだけの力がない。国内の分断と国力の衰微はもう「ポイント・オブ・ノーリターン」を超えた。あとは衰退するだけである。それは米の外交専門誌を読めばわかる。先月号は「ポスト米の世界秩序」の特集だった、今月号は「欧米の終焉」である。

 米国の最大のライバルは中国だが、米国には米中戦争を戦う意思も能力もない。通常兵器で戦えば、「負ける」というシミュレーションは2017年に出されてから結論は変わっていない。核戦争なら中国に勝てるが、中国を焦土とする代償に、ニューヨークもシカゴもロサンゼルスも消滅する。そんな不利なバーゲンをする気は米国にはない。

 だが、中国の西太平洋進出は抑制したい。だから、日韓にその役割を押し付けるつもりでいる。米軍はグアム、ハワイまで引いて日韓に中国抑制の仕事をさせる。後方支援はするが、コミットはしない。

 対中国の前線に立たされた日韓は米国という変数が消えて、日韓併合以後初めてそれぞれの国の立場での「安全保障構想」を語り合える状況を迎える。これまで米国は日韓が「戦争しない程度に宥和的で、同盟しない程度に敵対的」であることから最大の利益を引き出してきた。「分断して統治せよ」は植民地主義の基本だからである。その宗主国が撤退したら、「日韓同盟」の機運が高まるのは当然である。

 人種、宗教、政体、地政学的地位、家族制度、感情生活において日韓ほど似ている国は他にない。同盟するならこの隣国しかない。そのことを韓国民はわかっている。でも、日本人はわかっていない。「日韓同盟」という言葉を脳裏に描く習慣がないからである。

 だが、明治時代の日本の活動家たちは左右を問わず、「日朝連携」というアイディアを軸に思量し、行動していた。東学党の乱に参加した内田良平、『大東合邦論』の樽井藤吉、「鳳の国」の権藤成卿など、枚挙に暇がない。日韓がどう連携できるか、私たちは日韓併合以後、百年以上ネグレクトしてきた問いを今突き付けられている。

 そんな話をした。

(『週刊金曜日』2025年11月21日号)

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