〈海図のない航海〉田中優子
田中優子・『週刊金曜日』編集委員|2025年12月17日5:03PM

「設計図も海図もない中、これまで隠されてきた日本政治のさまざまな問題点を白日の下にさらし、解決策を模索する時です。それは国会議員や政治家だけでなく、国民全体の課題です」――これは10月16日付『朝日新聞』のインタビューに、御厨貴氏が答えた言葉の一部である。私はこれを読んで、いよいよ海図のない航海に、日本人全員が船出したのだと実感した。首相が決まる前の発言だが、自民党総裁が決まった時点で、多くの人たちが海図のない航海に出たと思ったであろう。それほど、高市早苗氏の自民党総裁決定は、日本の暗雲を予測させた。
高市氏の「ワーク・ライフ・バランスを捨てる」発言について、加藤陽子氏は「これは軍隊の中隊長レベルの発想です。それも、負けている軍隊」だと断言した。「身を捨てる覚悟」を見せることでしか隊の統率をはかれないからだと、15日付『朝日新聞』の鼎談で語っている。すでに負けている。それは自民党の敗北だけでなく、これから負けていく日本を予想させる。実に不吉だが、これも高市氏が首相になる前の予感である。同じ鼎談で杉田敦氏は「もしも一部野党との連立などで高市政権となれば、持続不可能な経済政策に加えて、この間の産業や学術の軍事化の流れが一層強まる心配があります」と述べた。この日、自民と日本維新の会が連立を前提に会談し、連立が決まった。
この鼎談とインタビューは、他にも読みどころが多くある。このような危機の時は、発言する人の根本的な考えがよくわかる。政局しか語らない人の予想屋のような意見は、こういう変動期には意味がない。耳を傾けるべきなのは「来し方」つまり歴史を知って「行く末」を語る人の言葉である。
石破茂前首相の「戦後80年所感」はまさにそういう内容を持った所感だった。戦前日本の問題を「戦争を回避できなかった政治」の問題として分析し、今後起こるかもしれない事態を前提にした上で、国会とメディアは歯止めにならねばならない、と釘を刺した。しかし欠けていることが二つあった。アジアへの侵略の歴史と、「防衛」の名目が招く戦争の可能性である。
高市氏は靖国神社を「平和のお社」と言った。加藤陽子氏は「国際的にはまったく通用しません」「日中共同声明や日中平和友好条約締結に向けて、靖国神社というトゲを抜くのに両国がどれほど苦労したか、外交交渉の蓄積への敬意と理解がないですね」と一刀両断。外交も暗雲が立ち込める。
(『週刊金曜日』2025年10月31日号)
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