考えるタネがここにある

週刊金曜日オンライン

  • YouTube
  • Twitter
  • Facebook

【タグ】

「犬笛型ヘイト」問う訴訟、李香代さんが一部勝訴 大阪地裁、名誉毀損など人格権侵害認める

中村一成・ジャーナリスト|2025年12月17日5:12PM

 人種差別に基づくSNS投稿で人格権を侵害されたなどとして、大阪市のイベント会社「トライハードジャパン(THJ)」取締役で大阪朝鮮中高級学校の元オモニ会役員、李香代さん(1966年生まれ)が、大阪府泉南市の添田詩織市議(89年生まれ)を相手取り550万円の損害賠償を求めた裁判で、大阪地裁(山本拓裁判長)は10月24日、被告に55万円の支払いと投稿の削除を命じた。

裁判所前で「一部勝訴」の垂れ幕を掲げて喜ぶ李香代さん(左端)と弁護士ら。(撮影/中山和弘)

 契機は添田氏がTHJを「中国共産党がバック」などと攻撃したことだ。同社が昨年2月に添田氏を提訴すると、被告はXに李さんを名指しした投稿を重ねた。

 内容は李さんが朝鮮学校差別の解消を求めて街頭に立つ写真や、軍政下韓国での「在日留学生捏造スパイ事件」で死刑判決を受けた李哲さん(再審無罪)と彼女との親族関係を晒すもの。投稿には支持者からの攻撃投稿がぶら下がった。「犬笛型ヘイト」である。

 判決は、添田氏の投稿は「(李さんが)何らかの非合法活動に関与している」印象を抱かせると認めた。その動機についても「別件訴訟の提起に対する反感等に基づく可能性が否定できない」とするなど、関連性や公益性を一蹴、名誉毀損など人格権侵害を認めた。

 焦点だった「犬笛型煽動」についても、「一定の政治思想を有する者による原告個人への攻撃を誘発する危険を含む」と認定し、投稿の削除命令にまで踏み込んだ。

 一方で人種差別については認めなかった。裁判長は争点整理で「問題の本質は差別」とする原告側主張を棚上げし、争点をそれ以外に絞り込んだ。判決では投稿に「属性一般」への言及がないなどとして、原告側の主張を退けた。

「人種差別」認めぬ不当

 認識不足か役人の保身かは不明だが、あまりに杜撰だ。添田氏は李さんの反差別運動を「胡散臭い」ことのように扱い、尋問でも「市民感情」などと前置きして朝鮮学校攻撃を繰り返した。会社HPに民族名を載せていた李さんが標的にされた理由は明らかだろう。

 さらに言えば、「意図」は差別認定の絶対条件ではない。人種差別撤廃条約では「目的又は効果」があれば差別は成立する。李さんは外出時にマスクを外せなくなるなど心身の不調に苦しんだ。具体的な「効果」が生じているのに、裁判官は「ジャッジ」から逃げた。

 名誉毀損などの不法行為が「差別」に基づけば、賠償額を増やすのが「京都朝鮮学校襲撃事件」以降の流れだ。近年は「ヘイトスピーチ解消法」の「不当な差別的言動」に該当すれば即、人格権侵害とする判決も続いている。周回遅れの判決の一因は、法的規範の不在だ。裁判官の資質に左右されない司法判断安定のためにも、包括的な差別禁止法が必要である。

 他方で、有力地方議員の言動に「否」を突き付けた意義は大きい。報告集会で田中俊弁護士は言った。「排外主義が強まる中で勝てた。一つ一つの勝利を積み上げて、政治の流れを変えたい。理は私たちにある」。続いて李さんは言った。「勝ち負け以前に、声を上げること、社会に問いかけをすることが大事と思ってやってきました。在日朝鮮人への差別は植民地時代から日常茶飯事で行なわれてきた。差別が差別として簡単に認定されるとは思っていない。だからこそ私は周りの差別には『ノー』と言い、政治家には良心を問い続けたい」。李さんは今、大阪府に罰則付きヘイト条例の制定を求める署名活動にも取り組んでいる。

(『週刊金曜日』2025年10月31日号)

定期購読はこちらをクリック

【タグ】

●この記事をシェアする

  • facebook
  • twitter
  • Hatena
  • google+
  • Line

電子版をアプリで読む

  • Download on the App Store
  • Google Playで手に入れよう

金曜日ちゃんねる

おすすめ書籍

書影

増補版 ひとめでわかる のんではいけない薬大事典

浜 六郎

発売日:2024/05/17

定価:2500円+税

書影

エシカルに暮らすための12条 地球市民として生きる知恵

古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)

発売日:2019/07/29

上へ