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軍隊と男女平等は両立するのか イメージ向上に利用され人権は重視されない女性

古川晶子・ライター|2025年11月24日4:07PM

軍隊と男女平等は両立するのか イメージ向上に利用され人権は重視されない女性

 航空自衛隊に勤務する現役自衛官の岩根理子さん(仮名)は、2010年の入隊当時から執拗なセクシュアルハラスメントを受けたという。上司や法務などに相談したが、昇進を遅らせるなどの不利益に遭い、23年に国家賠償請求訴訟に踏み切った。現在も係争中だ。

防衛省が作成した女性・平和・安全保障(WPS)に関するパンフレットより。

 同訴訟の12回期日である10月2日、支援者らが中心となり、憲法学者の久保田茉莉さんの講演を中心に、自衛隊と女性について考えるシンポジウム「女性自衛官という難問~軍隊への男女共同参画~」が東京都内で開催された。

 自衛隊における性加害は繰り返されてきた。訴訟になり改善を上層部が約束しても、なくならない。なぜか。久保田さんは、軍隊という組織の強固なジェンダー規範に着目する。強さ、たくましさなど「男性性」の表明が必要とされる環境では、女性を二流の存在とみなす風潮や性別役割分担意識が根強い。ハラスメントと加害者の免罪が横行するのはそのためだ。

 久保田さんは、軍隊で生き残るために、女性が「二極化」する傾向を指摘する。そもそも社会的・経済的地位が低い女性は、報酬や社会的地位を得ることが軍隊に入る動機となる傾向が強く、簡単に辞めるわけにはいかない。排除されないために女性役割をあえて引き受ける「女性らしさの追求」と、男性のように振る舞う「名誉男性化」の二極に分かれることになる。

 久保田さんはフランスの軍隊を対象に研究しており、著書『軍隊への男女共同参画 女性の権利の実現と軍事化の諸相』(日本評論社)も仏軍を対象にしたものだが、同書を読んだ岩根さんは、「事例の出来事も人物もすべて私が経験したことで、その分析も一つひとつ当てはまる」と語った。実際に「女性らしさの追求」や「名誉男性化」に該当する女性自衛官に問題解決を妨害されたという。

公と私、二つの暴力

 久保田さんは「近代の国民国家は二つの暴力を肯定した」という。公的領域における軍隊と、私的領域における家長の暴力である。これを否定したのが1947年施行の日本国憲法だ。戦力不保持(9条)および家庭における個人の尊厳と両性の本質的平等(24条)によって、明確に暴力・圧力構造からの脱却を規定した。

 しかし、施行から10年もたたない54年に自衛隊が発足。「最低限の実力」などとカムフラージュしても、9条を裏切る組織であることに違いはない。そして選択的夫婦別姓の法制化すらいまだに実現しない現状は、24条を裏切る家父長制意識の表れである。武井由起子弁護士は「日本社会に蔓延する、若者や女性はいじめて良いとする風潮と、声を上げた人を罰する文化と地続きだ」と分析する。

 こうした問題は放置したまま、政府は女性をイメージ向上のために利用する。その典型が国連「女性・平和・安全保障(WPS)」だ。WPSの国別行動計画(NAP)策定には市民社会の参加が必須だが、「安保法制違憲訴訟・女の会」の亀永能布子さんは、「策定に協力した女性団体の提言が最終的にすべて削除された」と言う。だが外務省の広報資料には「市民社会の協力を得て」と記載されている。

 また、資料で活躍ぶりを紹介されている女性自衛官は「大学卒の幹部ばかりで、現場で汗水垂らして働いている女性ではない」と岩根さんは指摘。自衛隊については良くも悪くもさまざまな思いがあるだろうが、いずれにしても、イメージ向上に利用されるが尊重されない女性の人権は見過ごされがちだ。久保田さんは「現に被害に遭っている女性を救済しつつ、軍事組織そのもののあり方を問うべきだ」と提言した。

(『週刊金曜日』2025年10月24日号)

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