〈いかに政治がひどい時代になっても〉崔善愛
崔善愛・『週刊金曜日』編集委員|2025年11月24日3:23PM

世界中が「自国ファースト」「移民排斥」に雪崩れ込む時流に乗り、高市早苗氏が自民党新総裁となり、とうとう首相になる見通しとなった。「美しい日本」を掲げた安倍政治の復活、シカを蹴り上げる「外国人」、そんな稚拙なメッセージを彼女はこれからも発信し続けるのだろうか。
自民党総裁選はもちろんのこと、韓国籍を維持している私には公職選挙法上の参政権がなく「有権者」ではないが、票に結びつかない「外国人」を悪者にするのは「貧困なる精神」そのものだ。これは「鬼畜米英」などと敵をつくって駆り立てたプロパガンダ同様、戦争への準備ともいえる。しかし私の日常は醜悪な政界とは違い、隣人らのぬくもりに囲まれている。
隣家のおばあさんは90歳。結婚してこの地に住むまでは、福島県猪苗代湖に近い神社の娘さんだった。私とは26年間隣同士だ。「あなた、そろそろ町内会の役員をやらないと、ね」と背中を押され数年前、私は地区の町内会会長になった。おばあさんはいつも「あなたのこと、他人とは思えないの。自分の娘のように思えてならないのよ。なぜかしらね」と声をかけてくれる。彼女の声が外から聞こえるだけで、私はやわらかい安心感に包まれる。
最近、自宅のリフォームをするために来た3人の大工さんが「チェさん、チェさん」と呼びながら、「お名前の発音、これであってますか? 自分は無知なので教えていただけますか」「工事に入る前、みんなでチェさんのお名前の発音を練習してきたんです」とはにかむように告白。その率直さがうれしい。こんなささやかなことにさえ、心が通い合う喜びを感じる。
山口県宇部市の「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(1991年結成)共同代表の井上洋子さんは、42年の水没事故によって海底に沈む朝鮮人を含む183人の遺骨を遺族に返すために長年尽力されているが、その執念が実り8月末、骨が発見された。記録的な猛暑のなか、灼熱の砂浜に立ち、遺族の思いを胸に一心不乱に取り組む。
そんな壮絶なまでの姿におもわず「井上さん、心身ともに大丈夫ですか?」と声をかけた。すると「チェさんら在日のみなさんが闘ってこられたことに比べれば、なんてことないですよ」と明るく笑う。私はこのような人たちを慈しみながら、ともに生きる。政治が私たちを分断させることはできない。
(『週刊金曜日』2025年10月17日号)
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