ウィシュマさん入管死亡事件、監視カメラ映像訴訟 国は全面開示に「5年間超える」
井澤宏明・ジャーナリスト|2025年11月24日3:47PM
名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)で収容中に亡くなったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)を撮影した監視カメラ映像をめぐり遺族が国に全面開示を求めて起こした裁判の第1回口頭弁論が9月30日、東京地裁(岡田幸人裁判長)で開かれ、国側は請求棄却を求めた。

遺族は今年2月、個人情報保護法に基づき、ウィシュマさんの死去(2021年3月6日)直前の約2週間の状況を映した監視カメラ映像計約295時間分すべてを開示するよう名古屋入管局長に請求。同局長は今年3月26日、すべてを開示しない決定を出した。
理由として、映像には「ウィシュマさん以外も映っており、容易に取り除くことが技術的にできない」「名古屋入管の保安・警備体制が記録されており、開示されると公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼす恐れがある」ことを挙げた。遺族が不開示決定の取り消しと開示を求めたのが今回の裁判だ。
訴状で原告側は、映像はウィシュマさんの個人情報で遺族に返されなければならず「ウィシュマのものはウィシュマへ」と主張。国側は答弁書で「自己以外の者の個人情報については、たとえ親族に関するものであっても開示請求することはできない」と反論した。
ウィシュマさんの妹ポールニマさんは意見陳述で「国が頑なに残りのビデオの開示を拒むのは、そこに入管にとって不都合な真実があるからです」と主張。映像は飢餓状態に陥り、点滴と病院での治療を求めたのにかなえられなかったウィシュマさんが亡くなるまでを記録したもので「姉の死の真実を知るために、どうしてもビデオの開示が必要です」と訴えた。
原告は「でたらめ」と非難
約295時間の映像のうち約5時間分は、遺族が名古屋地裁に起こした国家賠償請求訴訟で地裁の勧告を受けた国側が証拠提出している。国側は答弁書で、この約5時間分の映像から入管職員などの姿をマスキング処理するのに約171時間がかかったことを引き合いに約59倍の約295時間分の処理に1万89時間を要すると説明。
さらに、名古屋入管にはマスキングできる動画編集ソフトの入ったパソコンは1台しかないため作業を1人で行なわざるを得ないので「1300日間以上を要する」とし、「開示のために必要な期間は優に5年間を超える」と主張した。
記者会見した原告側代理人の指宿昭一弁護士は国側の主張について「でたらめだと思います。日本の国の役所がこんなことを言って、日本の科学技術の水準を疑われるんじゃないか」と非難した。
国が21年8月に出した最終報告書には、ウィシュマさんが死の直前の3月1日、カフェオレを飲もうとしてうまく飲み込めず、鼻から噴き出してしまったのを見た看守勤務者から「鼻から牛乳や」とからかわれたり、死の前日の5日、何を食べたいか尋ねられたウィシュマさんが「アロ……」と発声すると看守勤務者から「アロンアルファ?」と聞き返されたり、死の当日の6日には、問いかけに応えられないウィシュマさんが看守勤務者から「ねえ、薬きまってる?」と尋ねられるなど、心ない仕打ちの数々が報告されている。
ところが、すでに開示されている約5時間にこれらの場面はない。記者会見では「このビデオをあきらめないことが今、母親として娘にしてやれる最後の愛情の示し方と信じる」という母スリヤラタさんのコメントも読み上げられた。
(『週刊金曜日』2025年10月17日号)
定期購読はこちらをクリック







