袴田巖さん再審無罪判決から1年 法制審で話が進まない理由とは
粟野仁雄・ジャーナリスト|2025年11月24日3:00PM
静岡県清水市(現静岡市清水区)で1966年に起きた一家4人殺害事件で死刑判決を受けた袴田巖さん(89歳)に静岡地裁が再審で無罪を言い渡してから9月26日で1年。これを受け、再審制度の早期見直しを求める集会が同27日、静岡県弁護士会の主催により静岡市内で開かれた。

「けさ巖に『静岡に行くよ』って言ったら珍しく『何しに行く?』と。そこで『1周年の集会があるから一緒に行く?』と聞いたんですが『行かない』とのことでしたので、巖は欠席でございます」
集会の冒頭、県内の浜松市から駆けつけた巖さんの姉ひで子さん(92歳)はそう報告したうえで、2014年に当時静岡地裁の裁判長として再審開始決定をした村山浩昭さん(現弁護士)に「おかげで巖は生きながらえております」と謝辞。会場の参加者にも「皆様のご支援のおかげです。巖だけが助かればいいのではありません。再審法見直しも秋の国会では実現してほしい」と呼びかけた。
袴田弁護団は10月9日には静岡地裁に国家賠償訴訟を提起する。再審で主任弁護人を務め、国賠では弁護団長となる小川秀世弁護士は「弁護団に入った頃、一番若い僕が警察による証拠の捏造を主張したところ、先輩弁護士たちから『そんなことを言うものではない』と言われました」と集会で回顧。それが再審判決で裁判所から捏造と断定された以上「絶対に国賠は勝訴できる」と力を込めて語った。
それでも運動を続けよう
再審法見直しをめぐる国会での動きについては日本弁護士連合会(日弁連)の再審法改正推進室長で、大崎事件の弁護団事務局長を務めた鴨志田祐美弁護士が報告。「6月にやっと超党派の議員連盟の案が国会に提案されたものの、自民党や公明党の反対で9月国会では成立しなかった」と説明した。
続いて講演で登壇した映画監督(『Shall we ダンス?』『それでもボクはやってない』他)で、法務省法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」の委員も務める周防正行さんは、「昨年の無罪判決直後に会合がありましたが、弁護士以外は誰も袴田事件を語ろうとしなかった」と現状報告しつつ「嵐が去るのを待つだけ。大阪地検での証拠改竄事件の後、特別部会委員の顔ぶれを見た木谷明さん(元裁判官・弁護士、昨年11月死去)が『絶望的なメンバーですね』と言いました」との裏話も紹介。部会長(日本たばこ産業顧問の本田勝彦氏)による試案の文言なども会場内のスクリーンに示しつつ「取り調べの録音・録画は『警察の裁量で』とされていて驚いた。警察や検察が虚偽の自白に追い込んでいるにもかかわらず、『一生懸命取り調べているのに被疑者が噓をついて困る』ような書き方をしている」などと指摘した。
集会の後半、討論会に登壇した村山さんは「残念ながら(法制審特別部会は)多数決が原則で(法案の成立が)難しいことが見えてきた」と解説。そのうえで今後については「議連の案を押し上げるしかない。これが人権問題、人道問題であることは国会議員も理解しており、マスコミの力も借りて実現させたい」と訴えた。進行役を務めた間光洋弁護士(袴田弁護団)から「それでも冤罪問題にかかわる動機は?」と問われると「かかわった者の責任であり、時代の責任」。周防さんも「知ってしまったからです。特に法制審では何もできないことも」と答えた。
(『週刊金曜日』2025年10月10日号)
定期購読はこちらをクリック







