袴田巖さん弁護団、畝本検事総長を名誉毀損で提訴
粟野仁雄・ジャーナリスト|2025年11月24日1:19PM
「一家4人殺しの犯人」の汚名で死刑囚にされ、後の再審で無罪が確定した袴田巖さん(89歳)の弁護団は9月11日、検察トップの畝本直美・検事総長による談話で袴田さんの名誉が毀損されたとして、国に約550万円の損害賠償などを求め、静岡地裁に提訴した。
畝本氏は昨年9月26日の同地裁による無罪判決について「袴田さんが、結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し」として控訴を断念したことを同年10月8日に発表。一方で判決が「到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容であると思われ」るとし、原審での有罪の決め手「5点の衣類」が捜査機関の捏造とされたことについては「何ら具体的な証拠や根拠が示されていません」と不満を表明。これに対して弁護団は「無罪を言い渡された者を犯人呼ばわりすることは、名誉毀損にあたる」とし、袴田さんの名誉回復のため、最高検のホームページに謝罪広告を掲載するよう求めた。
訴状で弁護団は、談話中の「再審開始を決定した令和5(2023)年3月の東京高裁決定には、重大な事実誤認があると考えました」の部分は「4人を殺した犯人は袴田であるとした確定判決は正しいから再審開始決定は間違い」ということを意味しているほか、「上級審の判断を仰ぐべき」などの部分も「無罪判決は間違っているから控訴すべきものであり、控訴審で破棄させ、4人を殺した犯人は袴田であると認定させるべきである、との考えを明確にしたもの」だと指摘。そのうえで「無罪を言い渡された者を犯人呼ばわりすることは名誉毀損にあたることは議論の余地はないから、検事総長談話が原告の名誉を毀損するものであり、その毀損の程度は著しい」と批判し「刑法の確定無罪判決尊重義務の違反」だと主張している。
「やはり犯人」が本音か
畝本談話について、巖さんの姉のひで子さん(92歳)は「個人的にはともかく、職業柄あのように言わざるを得なかったと思っている。これからも後に続く人たちがいるので弁護士には頑張ってもらいたい」とコメント。巖さんの代理人の小川秀世弁護士は、筆者の取材に「巖さんを完全に冒瀆している談話であり、司法制度を無視している」と批判しつつ「巖さんが拘禁反応の影響で理解できないだろうと思っての談話だったのかどうかは知りませんが、こんなことを国家権力機関のトップが言うこと自体が大問題。昨年から何とかしなくてはと思ってはいた。異動が激しい検察組織でこの日まで畝本氏が在職してくれていて(提訴が間に合い)よかった」と語った。
同談話では弁護団が実験で証明した「味噌に1年以上漬けられた衣類の血痕は赤みを失って黒褐色になる」との主張への疑問も示されたが、これについて「袴田巖さんの再審無罪を学び活かす会」主宰で、前記実験に腐心した山崎俊樹氏は「血痕のついた衣類を味噌に1年漬けてどうなるかを調べた科学者などおらず、私たちの実験が世界で唯一無二」だと怒る。
「お前は真犯人だが許してやる」と言っているのと変わらないこの談話で、畝本氏は世間への「袴田巖は殺していた」との印象づけを狙ったのか、あるいは検察組織を鼓舞したかったのか。講演会などでの失言ではなく、組織内での推敲も経て発表された談話であり、訴訟の行方に注目したい。
(『週刊金曜日』2025年9月26日号)
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