米国の反DEI政策、どう抗う? 「女性を守る」の表現でトランス女性迫害
三浦美和子・フリー記者|2025年11月4日6:47PM
第2次トランプ政権発足後、世界に影響を及ぼしている米国の反DEI政策。DEIとはDiversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包摂性)の略語。奴隷制の時代から続く人種間格差や不平等を内包する米国は、DEI推進に力を入れてきたが、その伝統が覆った。

米ハーバード大学で約1年間の研究生活を送った政治学者の三浦まり・上智大学教授が9月9日、クオータ制を推進する会主催のオンライン勉強会で「アメリカの反DEI攻勢と女性たちの抵抗」をテーマに報告。「毎日、どこかの大学で拘束された人がいるというニュースが飛び交っていた。外国人は発言の自由が非常に制限されているので、留学生は授業で何を言うか気をつけるようになり、微罪でビザが取り消される可能性もあるのでとにかく静かに過ごした」と振り返り、社会が「言葉狩り」に覆われていく恐怖を語った。
大統領令により、米国のDEIは「違法な差別行為」と位置付けられた。DEIにかかわるウエブページは削除され、担当職員は解雇。DEIに取り組む大学への連邦資金削減方針も示された。「お金を締め上げることによって思想統制をしていくやり方が明瞭に観察できる」と三浦さん。
特に「標的」にされているのがトランスジェンダーだ。反トランス関連法案は2025年(9月現在)だけで991件提出され、トランスジェンダーの存在を否定するような政策が推し進められている。迫害の手法は巧妙だ。「専制主義的なリーダーが『女性を守らなければならない』『国民を守らなければいけない』というレトリックによってトランスジェンダーや移民という『外敵』をつくり出し、叩く。このレトリックが国を超えて日本にも入ってきている」と三浦さんは指摘する。ジェンダー平等を敵視し「日本人ファースト」を掲げる参政党が、社会の分断を煽りながら参院選で躍進したことは記憶に新しい。
第1次政権時との違い
米国は反フェミニズムの保守的な女性運動も強く、その存在がトランプ政権を支えているという。「女性の権利が制約されていた1970年代はフェミニズム運動が華々しく生まれる一方、反発する保守運動も着々と繰り広げられた。法曹資格を取るような保守派の女性たちが養成され、その女性たちが現政権の中に入って反DEIを推進。保守派は非常に息の長い運動をし、それが今の結果になっている」と三浦さんは分析する。
第1次トランプ政権が発足した2016年当時は、女性たちの抵抗運動が目立った。しかし、今回は法廷闘争などが主で、抵抗運動が見えにくいという。「国民の半数以上が民主的にトランプを選んだという事実が、抵抗運動を極めて難しくしているように思う。毎日、ありとあらゆることが起きてショックを受けるのに、どう向き合っていいかわからないまま数カ月が過ぎたという状況なのではないか」。権利運動を担ってきた人々の心情を、三浦さんはこう慮る。
一方で、三浦さんは「米国では自由や平等を求める動きも歴史が長い。それを語り継ぐ『パブリック・ヒストリー』という活動も豊かだ」と紹介。奴隷制など「過去の不正義」や「対立の歴史」と向き合うこと、女性の権利獲得の歴史を白人女性中心に語らない「ジェンダー・ジャスティス」の意識が大切にされているという。
その現場で三浦さんは、印象的な言葉に出合った。「(歴史上の人々を)理想化せず、たくさん間違いをした『等身大』の人間として伝えたい。人間は間違うのが当たり前で、そこから学んでいく」。このような活動は、日本でも排外主義に抗うヒントになるのではないか。
(『週刊金曜日』2025年9月26日号)
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