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〈隣人〉田中優子

田中優子・『週刊金曜日』編集委員|2025年11月4日5:56PM

田中優子・『週刊金曜日』編集委員。

『Wedge』(ウェッジ社)9月号の「〈急浮上する外国人問題〉『多文化共生』って簡単に言うな!『排外主義』に陥らないためにも原因の直視を」という出井康博さんの記事が興味深かった。

 外国人に頼る前にまず「日本人の若者が魅力を感じる国、住みたくなる地域をつくるための努力を惜しまず、他国に負けないレベルにまで賃金を引き上げていくこと」が必要という出井さんの結論には賛同する。外国人を低賃金で働かせ、医療も子どもの教育も保障しないなら、それは人権侵害なのである。外国人を日本企業の犠牲にしてはならない。違法就労や書類偽造を禁じることで、外国人自身の生活の質をブローカーからも、守らねばならない。とりわけ自国で命の危険にさらされている難民は早急に認定して、それぞれの能力に沿って働けるように配慮すべきだ。

 それらは制度上の問題だが、現実生活で私たちは外国人たちと暮らしている。その隣人たちと、どのように関わっていけば良いのだろうか。出井さんの論稿の冒頭にその事例があって、私はまずそこに関心が向いた。それは公営団地で1人暮らしをしている無職のAさんの話だった。上の階に外国人の家族が暮らしていて、仕事から帰宅した午前0時過ぎに料理や掃除をする。その音がAさんの部屋に響いてくる。Aさんは眠れなくなった。注意しても無駄だった。Aさんは引っ越すことができず、外国人が嫌いになったという。

 実は私は同じことを逆の立場で体験したことがある。30年以上前、英国のオックスフォードに住んでいた頃、冬になって階下の高齢の男性が怒鳴り込んできた。私は朝型なので早朝に起きて暖房を入れる。集中暖房なので湯がパイプを通る音で眠れないという。ドアが風で急に閉まった時も怒鳴り込んできた。大家さんによると、戦争の後遺症で大きな音に敏感なのだという。それを聞いて、朝の寒さには耐えることにした。

 しかし私は同時に、アジア人の女だから怒鳴り込んできたのではないか、と思った。それは確かめようもなかったが、恐れずに交流し話を聞き、友人になれば良かったと後悔した。いま斜め向かいに住むオーストラリア人の犬は頻繁に吠えるが、友人になったら不思議に気にならなくなった。その「不思議」を、隣人となって増やしていきたいのである。今や日本でも翻訳ソフトの発達で「言葉が通じない」は言い訳にしかならない。制度とは別に、どう隣人になるかも考えたい。

(『週刊金曜日』2025年9月26日号)

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