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朝鮮人大虐殺の犠牲者を横浜の寺院が一世紀経て初供養

石橋学・『神奈川新聞』記者|2025年11月4日4:53PM


 102年前の理不尽な死を初めて供養することができた。

朝鮮人虐殺犠牲者を供養して読経をあげる灘上住職と実行委員会のメンバーら。(撮影/石橋学)

 1923年9月1日の関東大震災直後に虐殺された一人の朝鮮人犠牲者の法要が9月3日、横浜市中区の日蓮宗寺院「善行寺」で営まれた。名前も素性も知れず、わかっているのは「人夫体」の男性であるということだけ。埋もれていた公文書に光が当たり、山門前で殺されていたことが記録されていたために実現した追悼だった。

 震災の約2カ月後、安河内麻吉・神奈川県知事(当時)から内務省警保局長に宛てた報告書「震災ニ伴フ朝鮮人並ニ支那人ニ関スル犯罪及保護状況其他調査ノ件」には県内で朝鮮人145人が殺害されたと記されている。この報告書は虐殺研究の第一人者、姜徳相氏が生前古書店で入手。2023年に市民団体「関東大震災時朝鮮人虐殺の事実を知り追悼する神奈川実行委員会」の山本すみ子代表との共編書『神奈川県関東大震災朝鮮人虐殺関係資料』(三一書房)として刊行された。100年の節目で世に出た新史料だった。

 虐殺の実態調査に取り組む実行委員会のメンバーは、住所が記載された虐殺現場を訪ね歩いた。その一つが善行寺前だった。9月2日の午後3時頃、朝鮮人が暴動を起こしているとの流言を信じた自警団が怒りに任せて殺害したと記載されていた。住所氏名年齢は不詳、加害者は捜査中とされていた。

 メンバーは灘上智生住職に新史料も示しながら事情を説明し、法要をしてくれないかと持ちかけてみた。断られるかもしれないとも思っていたが「やりましょう」との快諾を得た。同じように境内で朝鮮人4人が虐殺されていた別の寺では「そのような話は聞いたことがない」と拒絶されており、うれしい驚きだった。

「死者の声聞く努力を」

 灘上住職は振り返る。

「寺の目の前で悲劇が起きていたとは知らず、ショックを受けた。だが、断る理由はなかった。お釈迦さまは『人の尊さは生まれでなく行ないによる』と説いた。朝鮮人虐殺はその教えに反する残念なもので、差別のない社会を伝えていくのも僧侶の役目だからだ」

 震災当時を知る檀家から寺が地域住民の避難所になったという話は聞いていたが、虐殺の事実は言い伝えられていなかったことにも思うところがあった。

「近年の社会状況を鑑みて、歴史を正確に知らなければならないと感じる。悲劇を繰り返さない社会にするには負の歴史を記憶にとどめ、なかったことにする動きに抗うことだ」

 読経では「朝鮮人大虐殺」という言葉を何度も用いた。「誰にも目を向けられなかった死が特定され、仏となることができた。亡くなった方が安らかな気持ちになれるよう祈った」という。

 卒塔婆には「朝鮮人被虐殺者之霊位追善菩提」と書かれ、実行委員会がこだわった「虐殺」の2文字が記された。2013年から横浜市営の久保山墓地の慰霊碑前で追悼式の開催を続けてきた山本代表は「善行寺で初めての供養ができ、次は遺族と出会いたい。それが歴史と向き合うということだ」と意欲を新たにする。

「私たちは死者の声を聞く努力をしてきた。死者の叫びは私たちの歴史事実への姿勢を問い、虐殺に至る歴史の経過を問い、現在の社会の危険を問うている。死者と生者がつながり生かされるときだ」

 灘上住職は読経の中でその活動の成就も祈願したという。

(『週刊金曜日』2025年9月19日号)

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