【タグ】日本人ファースト
〈たったひとつの言葉で変わった空気〉雨宮処凛
雨宮処凛・『週刊金曜日』編集委員|2025年10月16日4:51PM

あなたが「日本人ファースト」という言葉を初めて見たのはいつだろう?
その時、どんな思いが込み上げただろう?
そう問うたのは、この言葉をめぐって「排外主義だ」「いやそうではない」という平行線の議論がずーっと続いているからだ。
私が初めて見たのは6月。たまに見ている複数のキラキラ女子アカウント(美容や整形話が中心)が、突然「中国系オーナーにより板橋のマンションの家賃が2・5倍に」に憤り、外国人観光客のマナーに毒づいた後、「このままでは日本は乗っ取られる」「だから政治のことも考えなきゃ」として紹介していたのが、参政党の街頭演説の光景だった。そこに映る幟に「日本人ファースト」と書かれているのを見たのが、この言葉との出会いだった。
一瞬言葉を失った。しかし、まったく政治に関心がなさそうなものの「外国人への不安」を抱えている層にその言葉がスッと入り込んだということは理解できた。これは、とんでもないことになるのではないか。その週末、参政党の候補者は三つの市議選でトップ当選した。
「日本人ファースト」で心を掴まれた層は、これまでの人生で他の政党の街頭演説にも遭遇してきたはずである。しかし、その層に、その光景は「道端のノイズ」にもならなかった。そこに初めて、「日本人ファースト」がひっかかったのだ。
さて、私は「日本人ファースト」という言葉にもやもやする一人だ。が、思えば私は非常にわかりやすい「解説」とともにその言葉と出会ったとも思う。もし、なんの前情報もなく目にしたらどうだったろう? そんな想像をしながら、「どこが排外主義なの?」という素朴な疑問にどう答えるべきか考えている。
とにかく、たったひとつの言葉によって、わずか3カ月でこの国の空気は大きく変質した。6月末には博士課程の学生への生活支援が日本人に限定され、7月から「不法滞在者ゼロプラン」に基づいて外国人の強制送還が急増、8月末には「アフリカ・ホームタウン」誤情報でJICA(国際協力機構)前でデモが開催され、大阪では移民反対デモが起きた。そして変わらず続く、クルド人ヘイト。
たった一言で社会の空気がこれほど変わるのを見て、「戦争ってこういうふうに始まるんだな」としみじみ思う。抗う者を吊し上げるツールはSNSという形で万全に用意されている。どうすればいいのか、これほど途方に暮れたことはない。
(『週刊金曜日』2025年9月19日号)
定期購読はこちらをクリック
【タグ】日本人ファースト







