大川原化工機冤罪事件、警察・検察幹部らが墓前で謝罪 遺族「決して許すことはできません」
粟野仁雄・ジャーナリスト|2025年9月25日4:10PM
不正輸出(外為法違反)の疑いで横浜市内の化学機械メーカー・大川原化工機の社長ほか幹部3人が逮捕・起訴されながら取り消しとなり、その後幹部らが提訴した国家賠償訴訟を経て警察・検察による「違法捜査」が裁かれた件(※)で、前記3人のうち2021年2月に死去した相嶋静夫さん(当時72歳)の遺族に対し、鎌田徹郎・警視庁副総監と小池隆・最高検公安部長、市川宏・東京地検次席検事の3人が8月25日に謝罪。横浜市旭区の霊園にある相嶋さんの墓を訪れ、遺族が見守る前で献花し、手を合わせた。

相嶋さんは長期勾留中に計8回の保釈請求を行なうも却下されるうち、進行性のがんで亡くなった。妻(77歳)は墓前で「このまま夫は見殺しにされてしまうのかと気が狂いそうです。命だけは助けてください」と勾留当時に東京拘置所所長に送った手紙を読み上げ、「お三方がこのような立場に立たされたらどうされますか」と問い、市川氏は「自分の身に置き換えますと、どれほどご心痛であったか言葉もございません」と答えた。
国賠での敗訴判決確定を受けて警視庁と検察庁は6月20日、大川原化工機本社を訪ねて、大川原正明社長と島田順司元取締役に謝罪した。この際、相嶋さんの遺族は謝罪を受け入れなかったが、その後の警視庁による検証結果を一定評価。だが妻はこの日、対面の場で「謝罪は受け入れますが、決して許すことはできません」と語気を強めた。母、長男(51歳)とともに、この日初めて会見に出席した二男の宣宏さん(48歳)は「警視庁の検証は不十分で失望しています。第三者の関与もなく信頼できません」と思いを吐露。前記した墓前で母親の姿について筆者が聞くと「母がいつも家で話していた思いでしたから」と答えた。
東京地検は処分者ゼロ
警視庁は8月7日に異例の謝罪会見を実施。迫田裕治・警視総監が「逮捕された3人の方々、捜査対象となった方々に多大なご心労、ご負担をおかけし、改めて深くお詫びする。在任中に私の下で起きていたことの責任は私にもある」と述べた。迫田氏は外事課長時代に事件の報告を受けていた。
だが、同日公表された検証結果は現場の暴走について「指揮機能が不全だった」などと、公安部長ら上層部は関与しなかったような説明。処分対象は退職者を含めた計19人で、最も重い懲戒処分が公安部外事一課の渡辺誠管理官と宮園勇人係長への減給だが、どちらもすでに退職しているため給与の支払いはなく、当人たちは何も払う必要はない。
処分の軽さに唖然とするしかないが、さらに驚くべきは東京地検。「多大なご迷惑をおかけした」と謝罪は表明しつつも、違法捜査にあたった検事や上司らの処分者はゼロ。相嶋さんらを起訴した塚部貴子検事が同僚検事から消極証拠の存在を知らされていたのに無視したことが東京高裁での確定判決で認定されたにもかかわらず、だ。
相嶋さんの遺族らは塚部検事と「罪証隠滅のおそれ」を口実に保釈請求に反対し続けた加藤和宏検事からの対面謝罪も求めている。この日、長男は「公序良俗に反する塚部検事と加藤検事には辞任、もしくは辞職を求めます」と発言。帰路に就こうとした小池・市川両氏に『毎日新聞』の遠藤浩二記者(『追跡 公安捜査』著書)が「処分(の見直しをするか否か)は言えないと言うことですか」と迫ったが、2人は答えず車内に消えた。
※詳細は『週刊金曜日』8月29日号掲載の原告および原告代理人の高田剛弁護士の座談会などを参照。
(『週刊金曜日』2025年9月5日号)
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