〈AIと原発〉想田和弘
想田和弘・『週刊金曜日』編集委員|2025年9月16日5:22PM

東京電力福島第一原発事故の惨劇から、さすがに人類は教訓を得て、原発は時代遅れの“オワコン”になっていくものだと信じていた。ところが、意外なところに伏兵が潜んでいたものだ。
米国IT企業大手が、今になって盛んに原発に投資しているのである。たとえば、マイクロソフトは2024年9月、メルトダウン事故で知られるスリーマイル島原発から、20年間電力を購入する契約を結んだ。また同年10月、グーグルは小型原発を開発するカイロス・パワーと電力購入の契約を結び、アマゾンはやはり小型原発開発企業のXエナジーへの750億円の投資を表明した。
なぜこれほど急速にIT企業の原発回帰が進んでいるのか。
理由はなんと、生成AI(人工知能)である。生成AIが大量の電気を消費するので、IT企業大手はその確保に乗り出しているのだ。
たとえばチャットGPTに質問して回答を得るには、グーグル検索の10倍の電力を消費するそうだ。まあ、本来は人間が調べ考えるべきことを機械に調べさせて考えさせるのだから、電気も食うのだろう。だけどそのために原発?
僕に言わせれば、こんなに馬鹿げた話はない。なぜなら生成AIなど、本来は不要なものである。そもそも人類は最近まで、生成AIなどなくとも普通に暮らせてきたではないか。少なくとも生成AIが明日消滅しても、すでに依存状態になってしまった人以外は、誰も困らない。
それどころか、そういう本来不要な余計なものが開発されたおかげで、私たちの仕事の多くはAIに取って代わられようとしている。人類総失業者時代の到来である。それがどれだけ大きな社会不安を招くのか、想像を絶する。
のみならず、AIは近い将来、人類の知性を凌駕するのではないかと言われている。その結果、人間を支配する危険性さえ指摘されている。
つまりIT企業たちは、人類を終わらせかねないAIのために、人類を終わらせかねない原発を復活させようとしているわけだ。彼らはそれで儲かるのだろうが(今以上に儲ける必要があるのだろうか?)、私たちの大多数は割を食うだけだ。
僕は自宅や仕事場で非原発由来の電気を購入している。生成AIも使っていないが、原発推進とセットであるなら、なおさら加担したくないのでボイコットしようと思う。それで時代に取り残されるなら、喜んで取り残されたいと思う。
(『週刊金曜日』2025年9月5日号)







