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湖東記念病院事件での冤罪めぐり滋賀県に賠償命令 国の責任認めず、原告は控訴

粟野仁雄・ジャーナリスト|2025年8月6日6:06PM

 2003年5月に、滋賀県東近江市の湖東記念病院で死亡した72歳の男性患者への殺人罪で服役後、再審無罪が確定した元看護助手の西山美香さん(45歳)が県(県警)と国(大津地検)を訴えた裁判の判決が7月17日にあった。

7月17日の判決後、記者会見に臨んだ西山美香さん(右)と井戸謙一弁護士。(撮影/粟野仁雄)

 大津地裁(池田聡介裁判長)は、「嘘の自白を強く誘導する違法捜査があった」「西山さんが自発的に話したかのように供述調書を作った」として県に約3100万円(請求は約5500万円)の支払いを命じた。一方で地検については「自白は信用できると認めたことは当時の捜査資料から合理性があった」と違法性を認めなかった。

 判決後に会見した西山さんは、「県に勝ったのは嬉しかったけど、国に勝つのは難しいなと思った」。原告代理人の井戸謙一弁護士は、「患者の自然死の可能性を指摘した鑑定を県警が検察に隠した違法は認められた。だが呼吸器が外れた時に鳴るブザーの消音装置の扱い方を西山さんが知らなかったことを検察はわかっていた」として国を相手に控訴したことを表明。これまで裁判では「西山さんは軽度の知的障害や発達障害などにより相手に誘導されやすかった」と主張しており、「この事件は供述弱者の西山さんが刑事に恋し、そこを警察が利用した誘導で自白調書を作ったことが一番の問題。判決がそこにまったく触れなかったのはおかしい」と憤った。

 事件当時23歳の看護助手だった西山さんは翌年に殺人罪で逮捕、起訴された。職場への不満が動機とされた。刑事裁判で懲役12年の刑が確定。満期服役し、17年8月に出所した。

 県警は当初、正看護師が深夜の痰の吸引を怠ったため患者が死亡した、などとみていた。ところが取り調べで西山さんが「呼吸器のチューブを抜いて殺しました」と「自白」。シングルマザーの正看護師を守るためだったが、虚偽の自白でどうなるかが想像できなかった。出所後の再審請求が最高裁で認められ、大津地裁は20年3月、取り調べを担当した山本誠刑事の誘導を認めて、無罪を言い渡した。

今も騙されない自信なし

 呼吸器はチューブが外れるとブザーが鳴るが、それを誰も聞いていない。そこを山本刑事は、西山さんが消音ボタンを繰り返し押したことにした。学業などの面でコンプレックスを持っていた西山さんは山本刑事に「美香さんも賢いところあるで」などと優しくされ、恋心を抱く。こうなれば虚偽の自白調書作成は容易だが、山本刑事は裁判の証人尋問で「好意を持たれているとは思わなかった。供述調書の作成で誘導や押しつけは一切ない」などと証言していた。

 会見場では「東住吉事件」での冤罪被害者となった青木惠子さんが西山さんに花束を渡した。青木さんは「私の国賠と同じ。裁判所は警察の責任は認めても、なかなか検察の責任まで認めない。でも山本刑事の取り調べを違法と認めたのはよかった」と筆者に話した。

 今回の判決が恋愛感情の利用に触れなかった点について西山さんは「裁判官はどうして女心をわかってくれないのか。人生をやり直してほしい」と笑わせつつ「悔しい」と本音を滲ませた。以前、筆者に「恋してなくても同じだったと思う。それほど山本の話し方はうまかった」と吐露した西山さんに、会見で改めて「今なら騙されないと思いますか」と問うと「今でも自信はないです」と語った。

 県警は控訴を断念。25日に池内久晃本部長が記者会見で謝罪した。

(『週刊金曜日』2025年8月1日号)

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