〈排外主義的風潮の拡大を憂う〉宇都宮健児
宇都宮健児・『週刊金曜日』編集委員|2025年7月18日6:36PM

ここ数年、日本社会において外国人、外国ルーツの人々を敵視する排外主義的風潮が急速に拡大している。NHKとJX通信社が6月に実施した調査では、「日本社会では外国人が必要以上に優遇されている」という質問に対し、「強くそう思う」か「どちらかといえばそう思う」と答えた人は64%に上った。しかしながら、日本人より外国人が優遇されているというのは全く根拠のないデマである。生活保護、医療、年金、国民健康保険、奨学金制度などで外国人が日本人より優遇されている事実はない。
2023年頃より、埼玉県川口市や蕨市に居住するクルド人に対する「クルド人は日本から出て行け」などといったヘイトデモや街宣が頻発している。また、6月に行なわれた東京都議選では、外国ルーツの候補者らの出自に関する誹謗中傷や「売国奴」「日本人の敵」「国へ帰れ」などといったヘイトスピーチがSNSで大量に拡散された。
そして、現在行なわれている参院選でも、各政党が「違法外国人ゼロ」「外国人優遇政策の見直し」「外国人に対する規制強化」などさまざまな排外主義的政策を打ち出している。6月に行なわれた都議選で「日本人ファースト」を掲げて躍進した参政党の影響があると思われる。このところヨーロッパでも、移民・難民の排除を掲げる自国民優先の右派政党が躍進してきている。
厚生労働省が7月4日に公表した24年国民生活基礎調査の結果によれば、生活が「苦しい」と感じる世帯が約6割に上っている。また厚生労働省は7月7日、5月の毎月勤労統計調査(速報)によれば物価の変動を反映した労働者1人当たりの実質賃金は前年同月比2・9%減で5カ月連続のマイナスとなったと発表した。実質賃金が上がらず、物価高で生活が苦しい問題は、外国人を排除して解決できる問題ではない。
人口減が進む日本社会は、外国人との共生が不可避の課題であり、そのためには、国籍、民族にかかわらず誰もが人間としての尊厳が尊重され、差別されず、平和に生きる共生社会をつくっていく必要がある。
わが国は1995年に国連の人種差別撤廃条約に加入している。日本政府は、人種差別撤廃条約に基づき、ヘイトスピーチをはじめとする人種差別をなくす政策を遂行する責任を負っている。多様性に基づく共生社会をつくるためにも刑事罰を伴った差別禁止法の制定が求められている。
(『週刊金曜日』2025年7月18日号)







