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関西電力が大阪万博一日券を原発立地県や電力関係の記者に配布していたことが判明

田代 恒一・ライター|2025年7月4日8:19PM

ジャーナリズムの腐敗か、はたまた権力者の奸計か。その両方である。現在開幕中の大阪・関西万博を巡って、報道機関に所属する記者の倫理が問われている。

 関西電力が、複数の記者クラブに所属する記者らに対し、大阪・関西万博の一日券(定価:大人7500円)を配布していたことが筆者の取材でわかった。福井県内の報道機関に勤める記者が筆者の取材に対し、関電からの万博チケット配布の事実を認めた。

10月13日まで大阪で開かれている大阪・関西万博。(提供/AFP・アフロ)

 編集部の質問に、関電も〈当社グループの事業への理解促進等を目的に、当社が所属する記者クラブの記者へ、先方の意を確認した上で、チケットをお渡ししたことは事実〉と答えた。

 2025年2月末、関電社員が福井県庁内にある福井県政記者クラブを訪れ、万博の一日券を県政記者クラブに所属する記者に配布したのだ。関電の担当者は、報道機関に所属する記者に1人当たり2枚を渡し、受領証にサインさせたという。

 関電は、配布先や枚数について回答を拒否しているが、地元記者などによると、万博の一日券の配布は、福井県政記者クラブのほか、原発のある同県敦賀市や、原発に近い小浜市の各記者クラブと、東京のエネルギー記者会、五月会(関電本社の記者クラブ)でも配布されていたらしい。

 ある記者は「不在の時に勝手に自席に置かれていた」と、拒否できなかった理由を筆者に説明した。当時、敦賀市通信部に勤務していた共同通信の女性記者は筆者の取材に対し、受領を否定。他社の記者の受領についても、見聞きしていないと答えた。しかし、共同通信の総務局は敦賀の記者クラブ所属の記者が受領したことを認めている。

 関電はきわめて公共性が高い電気事業を展開しており、公務員と同等レベルの倫理性が求められる。それにもかかわらず、報道機関に所属する記者に万博一日券を配布するのは報道機関に対する贈収賄行為だろう。配る方も配る方だが、もらう方ももらう方だ。記者という公共性が高い業務に従事しているにもかかわらず、権力者からの利益供与を安易に受けているのだから。

 福井県政記者クラブ内で関電の担当者が万博一日券を記者に配布した際、関電から万博のチケットをもらうことに異を唱えた記者はいなかったという。

関電と記者の近さ

 関電と報道機関との「距離の近さ」はこれまで何度も指摘されてきた。

 12年8月3日『朝日新聞』夕刊に掲載された原発とメディアを巡る連載では、関電による記者に対する接待攻勢の様子が記されている。記事によると、小浜市内の料亭で年に複数回、記者クラブと関電との宴会が開かれていたという。もちろん、費用は全額関電持ちだったという。

 前出の『朝日』記事は、〈80年代中頃から、自治体の情報公開制度が整備され始め、90年代には記者クラブとの懇親会費の返還を自治体に求める訴訟も起きた。取材先との会食は割り勘にするよう、徹底を図るメディアが増えた〉と書いている。しかし、今でもなお、関電による接待は存在しているという。

 エネルギー記者会に所属するある記者は筆者の取材に、関電から接待を受けたことを認めた。その記者によると、特に理由がなくても関電の広報担当者に情報交換の名目で食事に誘われることがあり、費用はすべて関電持ちだったという。

 福井県内で勤務する入社4年目の女性記者は、筆者に関電との会食があったことは認めたものの、会費の話題になった途端、「私には答える権利がない」と口をつぐんだ。後ろめたい事情があるのだろうか。

問われる記者倫理

 日本新聞協会は新聞倫理綱領(00年)で〈あらゆる勢力からの干渉を排するとともに、利用されないよう自戒しなければならない〉と記載している。

 報道機関は、記者に対し、取材関係先などから金品の受領などを認めないむねの綱領や倫理規定を設けていることが一般的である。

 メディア論が専門で上智大学の音好宏教授は、記者への万博チケット配布について、「記者に対する便宜供与だ」と断言する。大手メディアであれば万博協会発行の取材パスを入手することは容易で、万博取材へのアクセス権が十分に確保されていると指摘。取材機会がすでに十分確保されている記者らに対し、「関電がなぜ万博の入場券を配布したのか説明しなくてはならない」とした。そのうえで「各大手メディアはどのように自律的な報道を維持するのか、態度で示すしかない」として、大手メディアや所属する記者の倫理に釘を刺した。

 今回の万博に関して、関電は前売り入場券を25万枚購入している。その原資は、利用者が支払う電気料金だ。

 筆者は、編集部を通じて各社に質問状を送付した。

 全国メディアでは、『朝日』が〈福井県政記者クラブ所属の記者で受領者はいない。その他は調査中〉。『読売』は〈受領し、使用した記者はいない〉と回答したので、受領の有無を質問したが、回答はなかった。

『毎日』は〈一部の記者が受けとった〉。『日経』は〈福井県政記者クラブの2人が計4枚を受けとった〉。共同通信は〈敦賀記者クラブと福井県政記者クラブの2名が受けとっていた〉。時事通信は〈記者1名が提供を受けた〉。NHKは〈受領したケースがあった〉と答えた。『産経』からは回答がなかった。

『中日』は〈福井県内の8人が5月末までに15枚を受領〉。『福井新聞』は〈10件の受領を確認〉。「福井テレビ」は〈県政記者クラブ1人と小浜記者クラブ1人が各2枚受領〉。「福井放送」は〈該当者なし〉と答えた。

 受領を認めた多くの社は、関西電力へ返却もしくは今後返却すると答えたが、NHKは〈放送ガイドラインに沿って適切に対応している〉とするにとどまった。

「時事通信」のみが〈記者は券を使用していません。本人から事情を聞きましたが、社として問題はないと考えています〉と回答した。

「受け取れません」と言えぬ記者が権力を監視できるのだろうか。チケットを安易に受領した記者には猛省が求められる。

(『週刊金曜日』2025年6月6日号)

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