「誰ファースト?」 小池都政8年の検証を
望月衣塑子・『東京新聞』記者|2024年6月20日1:38PM
「機を見るに敏」というのだろうか。裏金問題をめぐり自民に大逆風が吹くなか、6月2日投開票の東京都港区長選で、無所属新人の女性前区議が、自民・公明の推薦を受けた現職を破った。すると翌日、小池百合子都知事は都庁で新区長と会い、「活躍されることを心から祈っている」と連携をアピールした。
面会は当日午前に都側が急遽打診したという。ちょっとひっかかる。敗れた現区長は5月末、小池氏に都知事3選出馬を要請した52区市町村長「有志」の1人。落選したら用済みとは、どうにも冷たい。
東京都知事選が6月20日に告示される。過去に現職の落選はなく、小池氏が出れば圧倒的有利だ。おそらく立候補表明も公約発表もぎりぎりまでせず、自民の推薦は受けず、「支援者の中に自民の人もいた」という体裁をとる。自民もあとから勝ち馬に乗る。
小池氏の姿勢から見えるのは、「あとがない」という危機意識だ。一連の裏金問題で、後ろ盾となっていた二階俊博・自民党元幹事長の政治力は失墜し、盟友の萩生田光一・党都連会長も処分を受けた。国政復帰&首相を目指すシナリオは消えた。選択肢がない。
だが、都政は小池氏の私物じゃない。まずは2期8年の検証が不可欠だろう。豊洲市場移転などで小池氏と仕事をしてきた元都庁幹部の澤章さんは取材に「思い付きのような指示に振り回され、職員たちは疲弊しきっている」と話す。
知事直轄の政策企画局には「空飛ぶ車」など、思い付きのような政策が次々と降ってくるため、現職の管理職からは「都民に必要ないことばかりやっている。『小池ファースト』だ」「誰が知事でもいいから状況を変えてほしい」という悲鳴に近い声が届くという。5月にあった都の管理職試験の受験率は昨年から15%減少し、うち女性の受験率は2割も減った。
2カ年で計48億5000万円かけた都庁の「プロジェクションマッピング」や、小池氏の顔写真入りの防災ブック(11億円)、顔写真入り防災ポスターを貼り出した町内会への計8億5000万円の補助金にいたっては、「3選に向けたPRにしか見えない」と呆れる。
自民との関係もおさらいをする必要がある。8年前、自公が推薦した元総務官僚の増田寛也氏との対決色を鮮明にし、自民党本部の反対を振り切り立候補。東京五輪・パラリンピックでは開催費用の都負担分の見直しもアピールしていた。2017年の衆院選では「希望の党」を立ち上げて代表に就任。政党対決の構図を都政に持ち込んだ。
だが、「排除します」発言で失速し、都議会で「カイロ大学卒業」の経歴疑惑をめぐり自民会派から追及を受けると、融和路線に柁を切った。排除発言を引き出したジャーナリストの横田一氏は「二階氏が都議団の追及を抑えた。2期目から自民との一体化が加速していった」と話す。森喜朗元首相が推し進めてきた神宮外苑再開発について、容認に柁を切ったのもそれからだという。
再開発の見直しを訴えていた坂本龍一氏が、死の床から都に要望書を出した。だが、小池氏は「事業者である明治神宮にもお手紙を送った方が良いのではないか」と冷たくあしらった。ここに本質が表れていると思う。この8年は「誰ファースト」の都政だったのか、有権者はぜひ思い返してほしい。
(『週刊金曜日』2024年6月14日号)