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「シネマ放談の会」想田和弘

想和和弘・『週刊金曜日』編集委員|2024年4月30日1:03PM

想田和弘・『週刊金曜日』編集委員。

 岡山市のシネマ・クレールという独立系映画館(ミニシアター)で「シネマ放談の会」を始めた。映画を観た後そのまま客席に残り、みんなで感想を言いたい放題するという企画である。放談なので、映画を褒めてもいいけど、けなすのもアリ。鑑賞料金を払った人は、誰でも参加できる。

 第1回の“肴”には、カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞し、米アカデミー賞脚本賞も受賞した話題作『落下の解剖学』(ジュスティーヌ・トリエ監督)を選んだ。僕も客席で初めて鑑賞し、ぶっつけ本番で司会をした。他の観客と同じ土俵で感想を言い合う方が、面白いと思ったからである。

 鑑賞直後、みんなに最高五つ星で点をつけてもらった。とてもいい映画だったが、案外三つ星をつける人が多くてびっくりした。五つ星は2人だけ。そこから五つ星派と三つ星派の意見の応酬が始まり、とてもスリリングなやりとりになった。総じて、想像以上にみんなの映画の見方が多様で、思いもかけぬ解釈が続出して、驚き、感動した。気づいたら1時間以上、みんなで話し込んでいた。

 放談の会を企画したきっかけは、シネマ・クレールが他の映画館同様、コロナ禍の落ち込みから思うように回復せず、このままだと存続が難しくなると聞いたことである。岡山ではクレールでしか上映されない映画が年に200本くらいある。ここがなくなったら、岡山の映画文化は悲惨なことになる。僕自身、観たい映画が観られなくなり、自分の映画をかけてもらう場も失う。

 そこで僕の方から「ノーギャラでやらせてもらえませんか」と提案したのが、シネマ放談の会だ。ニューヨークに住んでいた頃は、5、6人の映画仲間と一緒に映画を観て、ご飯を食べながら感想を述べ合うのが楽しかった。いい映画を絶賛するより、ダメな映画を酷評する方が楽しかったかもしれない。大胆にも、アレを映画館でやってしまおうと思ったのである。

 今回とても盛り上がったので、手応えは充分である。僕自身、一人で映画を観て黙って帰るのとでは、あまりにも異なる体験をさせてもらった。映画館に物理的に人が集って映画を観ることの意味を再確認できた。この会を定期的に行なうことで、会の常連さんが生まれて、横のつながりもできたら最高だなあ。次回のお題は濱口竜介監督『悪は存在しない』の予定である。

(『週刊金曜日』2024年4月26日・5月3日合併号)

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