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「八重山の戦雲」田中優子

田中優子・『週刊金曜日』編集委員。|2024年4月18日5:15PM

田中優子・『週刊金曜日』編集委員。

 三上智恵監督『戦雲』が公開された。ふむは「雲」の八重山方言だ。三上監督は『戦場ぬ止み』『標的の島 風かたか』『沖縄スパイ戦史』などの映画を監督し、たくさんの賞をとってきた方だ。

『沖縄スパイ戦史』はあまりに生々しく、胸が詰まる。陸軍中野学校出身の日本人の若者たちが、沖縄の16歳前後の少年たちを「護郷隊」という名の兵隊に仕立ててゲリラ戦や情報戦に使い捨てた。そのことを元少年兵たちへのインタビューから明らかにしている。

『戦場ぬ止み』では、2014年8月の沖縄防衛局と海上保安庁の大船団による辺野古大浦湾包囲が、目の前で見ているかのような迫力で迫ってくる。『標的の島 風かたか』は16年の女性暴行事件被害者追悼会の熱気から始まり、宮古島で自衛隊受け入れが決まるまでを描く。戦争体験者である辺野古の島袋文子さん、石垣の山里節子さんの話と、節子さんの歌う即興の「とぅばらーま」が心に響く。

 そして公開が始まった『戦雲』である。この映画は16年3月に与那国島に自衛隊駐屯地ができたことから始まり17年の宮古島ミサイル基地の着工、18年に石垣市民が集めた住民投票署名を市議会が無視し、住民投票に関する条文そのものを削除した事件が記録された。不都合なことが起こるとその根拠法をなかったことにしてしまう大変なことが起こったのだ。

 19年には宮古島駐屯地、23年に石垣駐屯地が開設され、ついに石垣港に米軍掃海艇が寄港する。

 この4本の映画で私たちは、漁師たち、牛馬を飼う人々、戦争体験者たち、海中の美しさ、祭、踊り、織物等々日々の生活の共有をする。その上で、先島諸島を含めた沖縄への急速な軍事施設集中の過程が時系列でくっきりと見えてくる。

 三上さんの映画を見ることは、いま沖縄で起こっていることを「目撃する」ことなのだ。沖縄の軍事要塞化は、これが間もなく日本全国の現実になることを、私たちに知らせている。

 私が共同代表をつとめる「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」は、4月14日の午後に神田神保町の専修大学で三上さんの『戦雲』を紹介しながら、徹底的に戦争を語り合うことになった。いまの沖縄を語ることは、これからの日本を語ることだ。

(『週刊金曜日』2024年4月12日号)

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