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3・11避難者が住宅退去訴訟で目黒区に敗訴 自己責任と切り捨てる判決

西村仁美・ルポライター|2024年4月11日8:01PM

 東日本大震災の津波被災者が、出身地の宮城県による住宅供与の打ち切りに伴い、避難先の東京・目黒区にある応急仮設住宅の明け渡しと、家賃相当額を含む損害賠償を同区から求められた裁判(本誌1月12日号既報)の判決が3月25日にあった。東京地裁(金澤秀樹裁判長)は区側の主張を全面的に認め、被告の友田美津子さん(仮名・70歳)に約820万円を支払うよう命じる判決を言い渡した。

判決後に参議院議員会館で開かれた記者会見と報告会の様子。(撮影/西村仁美)

 友田さんは2011年3月11日の地震による津波で気仙沼市内の自宅と経営していた店舗を失い、病身の夫とともに東京都へ避難。気仙沼市の紹介で、同市と友好都市協定を結んでいる目黒区の「みなし応急仮設住宅」(民間住宅を転用したもの。以下、応急住宅)に藁をもつかむ思いで避難した。以後約7年の応急住宅生活中に病状が悪化した夫は18年10月に死去。前年には宮城県の住宅供与打ち切り話を受けた目黒区より退去を求められていたが、経済的な苦境もあり、期限の18年3月末までに退去できる状態ではなかった。

 にもかかわらず目黒区はそんな友田さんにまともな支援も行なわないまま、裁判で退去を強いる手段に打って出た。21年6月、青木英二区長による訴訟提起議案が、友田さん本人への聴取もないまま区議会にて全会一致で可決。翌月には住居の明け渡しと家賃(月額19万2500円)滞納分を含めた額を求めて東京地裁に提訴した。

 今回の判決言い渡しでは法廷に裁判長の姿はなく、別の裁判官が主文を代読して終了。友田さんは茫然自失の体で、ほぼ満席の傍聴席からも「は? 何それ?」「不当です。酷過ぎです」などの抗議の声が上がった。

 25日の夕刻から東京・永田町の参議院議員会館で開かれた記者会見と報告会でも、友田さん代理人の山川幸生弁護士が「不当判決」と一刀両断のうえで判決の問題点を逐一指摘した。たとえば目黒区が友田さんに転居先の情報提供のチラシ4枚を郵送したことなどを判決理由で「相応の支援措置」などと評価したほか、友田さんが生活保護受給等によって別の住居を確保するなどの手段を採らなかった点についても「自らの判断でそのような方法を選択せず、本件建物への無償居住の継続を希望した」と、ようするに自己責任だと切り捨てている――と批判した。

自治体の「努力義務」とは

 報告会で山川弁護士はさらに、判決が被災者の権利権益を認めないことに加え、自治体の被災者支援はそれぞれの裁量によるものであり、支援をやってもやらなくてもいいとして被災者を切り捨てたと指摘。しかも本人に責任のない転居の件まで本人の責任にしている……と憤懣やる方なく語る。

 友田さん夫妻は目黒区での避難生活中に一度、16年9月頃には区側が指定した別の応急住宅へと転居させられている。山川弁護士は、「これはかなり劣悪で極端な自己責任論であり、考え得る限りでの最低最悪な判決だ」と述べる。

 被災者支援が各自治体の裁量に委ねられるとの旨を言っているのも深刻だ。被災者の権利に関わる最後の拠り所ともいうべき災害救助法第3条は「都道府県知事又は救助実施市の長」について「救助の万全を期するため」の「努力義務」を定めるが、これが実質的には支援をしないことも含めた各自治体の裁量問題に帰するとすれば「『万全』が空文化する。被災者を切り捨てていいとのメッセージをこの判決は出してしまっている」と山川弁護士は危惧する。

 続いて発言した友田さんは判決について「出て行けと言われても出て行ける状況ではなかった」と涙ぐみ、声を絞り出すように思いを語った。支援団体「めぐろ被災者を支援する会」共同代表の堀田栄喜さんも「被災者に寄り添ってほしいとの思いからこれまで区に対して陳情したり、区長にも要請文を出したりしてきた。今後も支援を続けていきたい」と語った。

 一方、目黒区は筆者の取材に、「今は控訴期間でもあり、現段階では答えられない」と回答、その後、友田さんは控訴を検討中という。

(『週刊金曜日』2024年4月5日号)

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