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核兵器廃絶をめざすイギリス人平和活動家の半生が和訳本で出版へ

竪場勝司・ライター|2023年11月27日7:03PM

 核兵器廃絶をめざして直接行動により兵器を破壊する一方、人間に対しては非暴力に徹する運動のスタイルでも知られるイギリス人平和活動家、アンジー・ゼルターさん(72歳)が自らの半生を描いた手記(原題『Activism for Life』、2021年)を和訳のうえ日本で出版するための資金集めを含めた活動に、日本の翻訳者3人が取り組んでいる。仮タイトルは『非暴力で世界を変える―活動家という生き方』だ。

Zoomセミナーに参加してあいさつするアンジー・ゼルダーさん。(提供/翻訳刊行委員会)

 アンジーさんは1996年に、イギリスからインドネシアに輸出されようとしていた戦闘機の格納庫に仲間と共に侵入。「非武装化」(武器を武器でないものに変える)と称して機体のコックピット(操縦席)をハンマーで破壊して起訴されたが、裁判で陪審員はこうした行動を「正当行為」とみなして全員を無罪とした。

 また、99年にはアンジーさんら3人の女性が、スコットランドにあるイギリス海軍のファスレーン基地に付属している原子力潜水艦試験施設に侵入。同施設が浮かぶゴイル湖に向かってコンピュータなどを投げ込み、実験用潜水艦モデルを破壊するなどしたことで起訴されたが、イギリスの裁判所は3人の行動が「国際法を順守するためにはやむを得なかった」として無罪を言い渡した。アンジーさんらはこうした活動を評価され「もう一つのノーベル賞」と呼ばれる「ライト・ライブリフッド賞」を2001年に受賞した。

『Activism for Life』には、先住民の権利の問題も含めたさまざまな平和活動や人権活動に取り組んできたアンジーさんの半生が記録されている。

 和訳に取り組んでいるのはブロガーの大津留公彦さん、翻訳家の川島めぐみさん、佐賀大学名誉教授(専門は原子核物理学)の豊島耕一さんの3人。アンジーさんと交流のある川島さんが原著の出版をアンジーさんからメールで知り「絶対面白そう。翻訳して日本で紹介したい」と思い立った。川島さんが、00年にアンジーさんを日本に招いて全国講演ツアーを企画した経験のある豊島さんに声を掛けたところ、さらに豊島さんが大津留さんを勧誘。3人で翻訳刊行委員会を結成し作業を進めることにした。翻訳・出版用の費用を賄い、ネットにアクセスできる幅広い層の人々に同書を知ってもらおうとクラウドファンディング(※)にも取り組んでいる。

セミナーに筆者も参加!

 また、翻訳刊行委員会は同書をプロモートするための「Zoomセミナー」を9月と10月の2回にわたり開催。10月30日に開かれた第2回にはアンジーさんも参加し「世界中の人々が、多様な問題を結び付けながら世界的な軍事産業という『巨大機械』に抗う必要性を理解し、より積極的に行動するならば希望はあります。今、一緒に行動しましょう」と呼びかけた。11月27日には第3回のセミナーも予定されている。

 和訳本を通じて訴えたいことについて川島さんは「想像力豊かで斬新、なおかつ法律に基づき自らの権利を行使する彼女の発想が私にはとても新鮮で、非暴力直接行動の可能性を見せてくれた。誰にでもできることはあるし、こんなことをやってもいいんだと思ってもらえれば嬉しい」と話す。

 豊島さんは、日本の市民運動が「逮捕」を特殊視し「逮捕される」イコール「運動に迷惑をかける」ことだととらえがちな感覚を打破しなければ世界レベルの市民運動になっていかないと指摘。「目的達成のためにどうすればよいかではなく『これを精一杯やっているんだから』といったところで満足してしまっている側面はないか。この本がそうしたことへの気づきのきっかけになれば」と期待する。

 大津留さんは「アンジーさんは私たちが考えつかないようなことを次々にやっている。この創造性に学び、一人ひとりが行動すれば世の中は変わるんだということを知ってほしい」と語る。

 和訳本『非暴力で世界を変える―活動家という生き方』(仮題)は来年1月、南方新社(鹿児島市)より出版される予定だ。

※クラウドファンディングは12月8日まで実施中。https://camp-fire.jp/projects/view/675547

(『週刊金曜日』2023年11月24日号)

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