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「自衛隊のハラスメント防止対策はいまだ不十分」 
弁護士らが調査開始

竪場勝司・ライター|2023年11月20日11:56AM

 自衛隊員らに対する人権侵害の救済に取り組んでいる「自衛官の人権弁護団・全国ネットワーク」(以下、同ネットワーク)が、隊員らを対象に、隊内でのハラスメント被害と組織の対応に関するウェブアンケートを11月1日から始めた。寄せられた声などを分析のうえ、組織対応の改善に向けたリポートにまとめて防衛省や国会に提出することで、ハラスメント根絶につなげていく方針だ。

アンケート実施について記者会見する(左から)武井由起子、佐藤博文、角田由紀子の弁護士3氏。(撮影/竪場勝司)

 昨年7月、元陸上自衛隊員の五ノ井里奈さんが同僚の性暴力を実名で告発後、自衛隊のセクシュアルハラスメントの深刻さが明るみに出た。防衛省は同年9月、全自衛隊員を対象とする特別防衛監察の実施と有識者会議によるハラスメント防止対策の検討を発表。今年8月にはハラスメント被害の申し出が1325件あったなどの監察結果が発表された。有識者会議も「組織上の改革が不可欠」とするなどハラスメント防止対策の抜本的な見直しに関する提言をまとめた。

 同ネットワークは自衛隊員らに対する人権侵害をめぐって、北海道、東京、宮城、神奈川、長崎、沖縄など各地で起こされた訴訟を担当する弁護士らで構成される。特別防衛監察に関しては「対応窓口に専門性や調査権限がない」「申し出たのに何も動かなかった」など苦情の相談が寄せられており、同ネットワークでは有識者会議の提言についても「私たち弁護団に日ごろ寄せられる相談のような、現場のリアルな状況が反映されているとは思えない」と批判。また自衛隊に対しては「人権教育がなく、相談や救済機関に専門性や第三者性が確保されている状況にはない」とも指摘している。

 そうした認識の下で、特別防衛監察の内容や自衛隊内のハラスメント防止対策の有効性には「大きな疑問があり、看過できない」として同ネットワークが「自衛隊のハラスメント根絶実現プロジェクト(ハラ根)第一弾」と題して始めたのが今回のアンケートだ。これにより隊員らの切実でリアルな声をできる限りそのまままとめ、さらなる検討と改善を求めるリポートを作成。防衛省・自衛隊、さらに政府・国会に提出。有効な防止策が取られるよう働きかけていくという。

「当事者の声」可視化を

 アンケートは対象別に「被害当事者用」(現役隊員と元隊員、防衛省職員)、「家族・知人用」の2種類があり、ともに公式サイトの専用ページ(※)よりアクセスのうえ匿名で回答する(所要時間は5分程度)。実施期間は12月31日までで、主な質問内容としては、①セクハラ、パワハラなどの実態に関する自身や他の人のケースについて、②防衛省・自衛隊のハラスメント相談対応が機能しているか、③防衛省・自衛隊のハラスメント防止の取り組みが機能しているか、④自衛隊のハラスメント根絶には何が必要か、また特別防衛監察や有識者会議の提言、自衛隊に関する訴訟など個別事件についての意見(自由記述)――の4点。アンケート結果は年明けには公表の予定だ。

 開始前日の10月31日、同ネットワーク主要メンバーである佐藤博文、武井由起子、角田由紀子の弁護士3氏が東京都内の司法記者クラブで記者会見した。

 3氏らは過去十数年にわたって「自衛官の人権弁護団」との看板を掲げて、自衛官や家族の“駆け込み寺”となろうと活動してきた実績を持つ。昨年の五ノ井さんによる告発以降は前述の通り防衛省や有識者会議などにおける従来にはなかった展開が生じているが、その内容に対し、会見で佐藤氏は「これで本当にハラスメント根絶に向けた重要な一歩になるのかといえば、まったくそうではないというのが私たちの率直な認識だ」と不満を表明。

 そのうえで、さらに佐藤氏は、「当事者の声が可視化され『今の自衛隊や防衛省ではここがダメなんだ』ということを当事者が、あるいは当事者に寄り添う支援者や弁護士が声を上げていく動きを作らなければ、事態は打開できない」と訴えた。

※「自衛隊のハラスメント根絶実現プロジェクト(ハラ根)第一弾」
https://jieikan-jinken.com/history/entry-44.html

(『週刊金曜日』2023年11月17日号)

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