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袴田事件発生から57年、ついに再審始まる 
「裁かれるべきは警察、検察、裁判所だ!」

粟野仁雄・ジャーナリスト|2023年11月14日3:44PM

3月20日、東京高検の特別抗告断念を伝えられたときの袴田巖さん。(撮影/粟野仁雄)

「世紀の冤罪」と呼ばれた事件の再審が死刑確定からでも40年以上を経てようやく開始。来春の結審まで12回の期日が予定されるこの裁判では何が問われているのか。

「巖に真の自由をお与えくださいますようお願い申し上げます」

 弟に代わって被告人席に立った袴田ひで子さん(90歳)が渾身の思いを訴えた。

 10月27日、ついに袴田事件の再審初公判が静岡地裁(國井恒志裁判長)で開かれた。1966年6月に静岡県清水市(現・静岡市清水区)で起きた味噌製造会社の専務一家4人殺害事件から57年余。死刑が確定した袴田巖さん(87歳)による81年4月の第一次再審請求からも42年半が経過した。死刑囚の再審としては同じ静岡県で起きた島田事件(発生54年、再審無罪89年)以来だ。

 秋晴れの朝から裁判所に並んだ傍聴希望者は、整理券バンドを手首に巻かれたうえで、隣の駿府城公園で待機。抽選倍率は10倍ほどで、筆者は1番違いで外れた。

 とはいえ今回は「主役」が出廷したわけではない。死刑に怯える長期勾留による拘禁反応の影響で巖さんは通常の会話ができない。9月末に巖さんとの面談でこれを確認した國井裁判長が、最初に「さん付け」で出廷免除の理由を説明した。この日、巖さんは姉と暮らす浜松市の自宅から、支援者の車でドライブを楽しんだという。

涙した弁護人や傍聴者

 検察官が「被告人は昭和41年6月30日の午前――」と原審と同じ起訴状を読み上げ、弟の保佐人となっている姉のひで子さんが証言台に立つ。

「57年にわたって紆余曲折、艱難辛苦がございました。私も弟、巖に代わって無罪を主張いたします」など、装飾や冗長を嫌う彼女らしい、簡潔で短い意見陳述だった。それでも多くの傍聴者は感動を覚えたという。

 筆者とは抽選の1番違いで「当選」して傍聴できた浜松市の支援者、安間孝明さん(65歳)は「陳述の時、珍しくひで子さんが少し涙声になっていました。私も涙ぐみました。角替(清美)弁護士なんかボロボロと泣いていましたよ」と明かした。

 陳述でひで子さんは「お世話になりました」と裁判所と弁護団に加えて検察にまで謝意を示した。今年3月、検察の特別抗告断念で自宅に相次いだ祝電に「検察は偉かった。偉いよ」と電話口で話したので驚いたことを思い出す。

 検察は冒頭陳述で巖さんを犯人とする根拠として①凶器はクリ小刀で、被害者宅の中庭に落ちていた雨合羽からさやが見つかった。雨合羽は従業員が使用し、工場にあった、②犯行(放火)に使われた混合油も工場で保管されていた可能性が高く中身が減っていた、③被害品布袋のうち2点は被害者宅と工場の間で発見され、工場では血痕や手ぬぐいが風呂場で発見された、とした。

 だが文言には「味噌工場の関係者と推認される」など「推認」がよく使われ「被告人はこうした行動を取ることができた」のように巖さんを犯人と断定できていない表現も散見された。

新たな捏造の指摘

 これに対し弁護側の冒頭陳述は「犯人は外部の複数人で、動機は怨恨。犯人らは被害者が起きていた時から家に入り込み、4人を殺して放火した」と、確定判決での未明の単独犯説を否定した。

 発生当初から、殺された長男が胸にシャープペンを差したワイシャツ姿だったり、専務夫婦が腕時計をしていたなどの不自然さは指摘されていたが、それらは「自白した」ですべて看過されてきた。

 弁護団は「雨合羽は動きにくく、侵入時に着るとは考えられない。さやを入れたのは、犯行と工場を結びつけようとした警察だ。金袋二つは逃げる時に落としたとしているが、金袋を置いたのも警察で、工場関係者に嫌疑を向けさせる捏造の可能性がある」とした。また警察が当初、袴田さんとは血液型が異なる(被害者の)血液が付着していたとの理由で犯行着衣としたパジャマについても「当時の技術では肉眼で見えるような血痕がなければ血液型鑑定はできない。鑑定も捏造」とした。

「5点の衣類」以外にも警察の捏造はまだまだある。袴田事件とは警察の証拠捏造事件なのだ。

 とはいえ再審でこれらが一から審理されるわけではなく、最高裁が東京高裁に差し戻した際に宿題とした「5点の衣類の血痕の色の変化」の再吟味が中心。弁護団は「1年以上味噌につかった衣類の血痕に赤みが残るわけがない」と、血痕も検出できないパジャマでは公判が持たないと焦った警察が1年後に味噌タンクに5点の衣類を放り込んで行なった捏造だとして無罪を主張する。

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