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山梨リニア工事差し止め訴訟は年度内に判決 
原告側に高まる期待

樫田秀樹・ジャーナリスト|2023年11月10日5:34AM

 山梨県南アルプス市の住民6人がリニア中央新幹線(以下、リニア)の工事差し止めを求めた民事訴訟で10月24日、甲府地裁は今年度中に判決を出すと表明した。

10月24日、裁判後の報告集会で梶山正三弁護士(前列左から4人目)を中心に並ぶ原告と補助参加人ら。(撮影/樫田秀樹)

 JR東海が東京(品川)から名古屋までの2027年開業を目指すリニアは全長約286キロの約86%にあたる約247キロはトンネル区間。残る約39キロの地上走行区間のうち約27キロが山梨県に集中する。これは同県内のルート間近では騒音や振動、日照障害などに直面する家屋が多いことを意味する。

 たとえば原告の一人、秋山美紀さんの自宅の場合、ルートが斜めにかすめる庭の角は金銭補償されるが、ルートからほんの数メートル離れた家屋は補償対象外だ。リニアが走れば秋山さんは一日中日陰と騒音のなかで暮らすことになる。家を売却し移転しようにも、そんな自宅を買う人はいない。裁判はやむにやまれぬ手段だった。

 原告側の梶山正三弁護士は19年7月30日の第1回口頭弁論から毎回、裁判所に山梨リニア実験線と原告居住地の2カ所の現地検証の実施を要請した。裁判所が将来の被害を確実に予見できると考えたからだ。

 しかし当初に同裁判を担当した鈴木順子裁判長にその気はなく、被告のJR東海も「被害の有無は構造物の完成を待ってからでないと確認できない」としてその実施に拒否感を示していた。

 ところが22年4月19日の第11回口頭弁論より担当が新田和憲裁判長に代わるや、様相が一変した。

 新田裁判長は「この中でリニアについては私が一番の素人です。原告と被告には、今までの主張を整理した『要約書面』を用意していただきたい」との謙虚さを見せ、梶山弁護士の要請にも「互いの主張を整理してから検討したい」とやる気を見せた結果、実際に23年9月15日と19日の2回にわたって現地検証が実現したのだ。

がぜんやる気の裁判長

 9月15日、甲府地裁は実験線周辺の4カ所で、リニアが走る高架橋の日陰での果物の生育被害や、高架橋近くの家屋では年に3カ月間も日光が入らないこと、高架橋に防音フードを被せていない区間では騒音が酷いなどの訴えを確認。同19日には原告6人と34人の補助参加人中3人の居住地で、自宅や農地がどれくらいルートから近いかを確認。日照障害、騒音、眺望喪失などへの訴えを聞いた。

 筆者は19日、裁判所からの指示に従い検証団から数十メートル離れた距離から取材した。会話は聞こえなかったが唯一、声がよく通る秋山さんが被告側弁護士に「あなたならこういう場所に住めますか?」と詰問したのは確認できた。

 そして10月24日には甲府地裁で10時から15時にかけて、原告6人と補助参加人2人への証人尋問が行なわれた。この人選もすべて新田裁判長が認めたのだ。

 8人は現地検証での訴えに加え「住民の質問にJR東海が決して文書回答をしない」「日陰時間のシミュレーションデータを求めても、JR東海は公開しない」などJR東海の対住民姿勢への不信も訴えた。だが、これらの証言に被告のJR東海はすべて「特にありません」として反対尋問を行なわなかった。

 証人尋問が終わると新田裁判長は、「判決は年度内に出したい」と述べたうえで、梶山弁護士に「最終準備書面は12月22日までにご提出できますか」と尋ねた。梶山弁護士が「12月25日なら」と答えると、新田裁判長は同意のうえで、結審についてこう打ち出した。

「では次回期日ですが、12月26日午後でいかがでしょうか」

 最終準備書面の翌日? 傍聴席から「え」と声が漏れた。すると新田裁判長は「もうわれわれも(書面をその日の)午前中に一生懸命読みますから」と約束したのだ。

 裁判後の報告集会で梶山弁護士は「裁判長は前向きに解決を目指している」とその姿勢を高く評価。ただ同時に、国家「的」プロジェクトに裁判所がNOを言えるのは難しい以上「楽観は禁物です」と冷静にコメントした。次回期日は12月26日13時半から開かれる。

(『週刊金曜日』2023年11月10日号)

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