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新宿歌舞伎町「路上売春」報道の視点に偏りあり 
「なぜ買うのか」を問わないメディア

おがわ たまか・ライター|2023年10月30日7:51PM

Colaboのバスカフェに対して嫌がらせに来たYouTuberら。3月、東京・新宿で。(撮影/小川たまか)

 今年に入り、東京・新宿歌舞伎町近くの大久保公園に立つ女性たちを「立ちんぼ」「路上売春」「交縁女子」などのタイトルで取り上げる記事をよく見かけるようになった。たとえば次のような記事だ。

・《記者潜入ルポ》大久保公園で“立ちんぼ”して分かった“交縁女子のキケンな実態〟と“男性客の正体”「お金に困っていないですか?」「病院近くは若い子が多くて料金は高いかな」(文春オンライン/4月1日)

・「今いちばん稼げるから」若い日本人女性が歌舞伎町で“立ちんぼ”するワケ(日刊SPA!オンライン記事/8月18日)

 2月にはTBS系番組「サンデージャポン」が「交縁女子」を取り上げた。また、毎日新聞のデジタル版では「ルポ路上売春 2023年の歌舞伎町から」を2月からスタート。7月から集中的に更新し、9月末までに20本以上が掲載されている。一部は紙面にも時間差で掲載された。

 9月23日には日刊SPA!が「歌舞伎町のホテルから飛び降りた16歳の“トー横キッズ”。亡くなる直前に語った『壮絶な過去』と『大人への絶望』」というタイトルの記事の中で、性虐待の過去を持ち、その後大久保公園で売春していた少女の話を取り上げている。さらにユーチューバーたちもこの「路上売春」報道に加わり、撮影許可を得たのか不明な女性たちの動画がいくつもアップされている。既視感があるのは「援助交際」という言葉が流行った1990年代と同様の取り上げ方だからだ。

 記事によっては、記者が当事者の少女たちに寄り添って話を聞く姿勢を感じるものもあるが、それにしても違和感が拭えない。その違和感は、朝日新聞「望まぬ妊娠『男性不在』の日本 女性や子ども政策、フランスの視点は」(9月26日)の記事内にある記者の言葉「――日本では買う側の男性について、なぜ買春するのかを問う報道は少なく、若年女性の売春を『パパ活』と呼ぶなど、女性の能動性にばかり注目が集まります」で説明することができる。

 社会問題として取り上げられていながら、なぜ「売る側」の過去や背景ばかりが詮索され、記事に晒され続けるのだろうか。買う側の事情については根掘り葉掘り聞かれ、背景を詮索されることがないのはなぜなのか。

報道増加でからかい増加

 メディアが好奇の目で取り上げることで、路上に立つ女性への冷やかし客も増える。新宿で若年女性へのアウトリーチ活動を続けてきた一般社団法人Colabo代表の仁藤夢乃さんは、「以前は1人か2人で来る男性が多かったが、最近では4〜5人で来て女性をからかう姿を見かける。ここ半年で顕著な傾向」と話す。また、メディアが支援団体に対して安易に「当事者を紹介してほしい」と依頼することを危惧している。当事者が支援につながっても、すぐに状態が安定するわけではない。気持ちが揺れ動く難しい状態の少女も多く、取材の負担が大きいからだ。

「路上に立つ女性の報道をするなら、その背景にいる性売買業者や、女性の貧困問題、公的機関や警察が対処してこなかった現状にも目を向けてほしい。行政や警察の広報のような報道はやめてほしい」と仁藤さんは苦言を呈する。

 原稿執筆中に、買春側に取材した記事を一つ見つけた。「新宿歌舞伎町で女子を買っている男子に話を聞いてみた」(ガジェット通信/9月21日)では、ライターが「かなり多くの買春男子に声をかけたが、ほとんど無視をされるか断られた」とある。しかし話を聞くことができた男性は、警察から職務質問や買春の指摘をされたことはないと語ったという。

 メディアは女性側の話を探ろうとし、警察は「売る行為」を咎める。一方で、メディアも警察も男性からは話を聞こうとしないし、行為へ介入しようという視点がない。男性側は「買う」のが当たり前で背景を問う必要もないという前提だとしたら、それは男性に対する偏見というものだろう。

(『週刊金曜日』2023年10月6日号)

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