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アフガニスタンの女性抑圧 
タリバン政権が奪う自己決定権と教育機会

神原里佳・ライター|2023年10月23日6:57PM

 10月11日は、少女たちの教育を受ける権利と社会的地位向上を目的として国連が定めた「国際ガールズ・デー」。国連ウィメン日本協会はこの日にちなみ、アフガニスタンの少女・女性支援のためのオンラインチャリティイベントを9日に開催した。

アフガニスタンの少女たち。2021年、タリバン占領後だが、登校が禁止される前の様子。(提供/国連ウィメン日本協会)

 アフガニスタンでは2001年よりイスラーム主義勢力タリバンが米国の軍事作戦により政権の座を追われていたが、21年8月、首都カブールを制圧し復権。暫定政権を発足したが、女性への人権侵害に対して国際社会から非難の声が上がっている。現状について、同志社大学大学院教授でイスラームとジェンダーを専門とする中西久枝氏が基調講演を行なった。

 現在、アフガニスタンでは人口の約5分の1が貧困ライン以下に置かれ、多くの子どもや妊婦らが重度の栄養失調に陥っており、緊急の人道支援が必要な状況。タリバン復権以降、少女たちは中学、高校に通うのを禁止され、小学校までしか教育を受けられない。女性は日常的な外出にも親族男性の付き添いが必要で、外出時は頭髪を隠すヒジャブ(スカーフ)ではなく、全身を覆い隠すブルカの着用を推奨。幼くして結婚させられる少女婚の慣習も根強く、これには貧困ゆえに家族が少女を売ってしまうという背景もある。あらゆる局面において「女性の自己決定権が奪われている状態」だと言う。

 タリバンは「女性は守られるべき性であり、制限はいずれもイスラーム法に基づくもの」としているが、中西氏はこれに異を唱える。「少女婚や、女性の教育権を男女隔離・分離で阻むといった行為はイスラーム法の規定にはないし、ヒジャブについても着用が女性の選択に任されている国もある。また、一般的なイスラーム法では離婚後の女性の生活保障があるが、アフガニスタンでは実践されていない」と指摘。「イスラーム法のもとであっても柔軟な解釈で女性の権利をある程度改善することはできるし、実際、中東や北アフリカなど多くのムスリムの国では、国際的な人権意識に合わせて法改正がなされている。タリバンがここまで女性の権利を制限するのは、国際社会に対して自身の権力の強さをアピールするためではないか」と切り込んだ。

イスラム社会改革の希望

 中西氏は、米軍が残した最新兵器や戦闘機などがタリバン政権の資金源の一つになっているため、当面、政権は存続すると見ているが、「事態を打破する希望はある」と語る。「タリバン復権までの20年間に識字率は確実に向上した。02年に10歳だった少女も今や31歳の母親。この間、女性たちのエンパワーメントは向上し、家庭やコミュニティで教育活動をしたり、タリバンに抗議運動をしたりする女性も増えている。アフガニスタンの女性は強い。彼女たちこそがイスラーム社会を変えていく」と強調した。

 アフガニスタンの学生Kさんも留学先から発言。「01年以降は多くの学校や教育機関に女子学生が在籍していたが、21年のタリバン復権後、女性の基本的人権、特に教育を受ける権利が奪われている。アフガニスタンの女性たちは社会から消え去りつつある」と報告。国際社会と国連に対し、女性たちの教育へのアクセスを含む基本的権利の回復や、普遍的な人権を侵害する者は責任を負わされなければならないこと、また少女たちの一部はオンライン教育を利用できるものの電力と技術が十分でないため、遠隔ではなく対面式の教育を望んでいることなどを訴えた。

 アフガニスタンでは7日、マグニチュード6・3の地震が発生し、死者2000人以上、家屋の倒壊もおよそ2000と発表されている。この災害は困難を抱える人々にさらに追い打ちをかけると予測され、国連ウィメン日本協会は同国の少女・女性へのよりいっそうの支援を呼びかけている。

(『週刊金曜日』2023年10月20日号)

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