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埼玉「虐待禁止条例改正案」は撤回 
必要不可欠な子どもたちだけで育む世界

想田和弘|2023年10月20日7:46PM

週刊金曜日編集委員・想田和弘コラム

 埼玉県の自民党県議団が県議会に提出した「虐待禁止条例改正案」を見て、目を丸くした。自宅であれ公園であれ、小学3年生以下の子どもには、常時大人による見守りを義務づけるという内容である。

 条例が通れば、お使いに行ったり、子どもたちだけで公園で遊んだり、登下校したりするのも「虐待」に当たるので禁じられる。お留守番をしたりするのも、たとえ高校生の姉や兄と一緒であってもNGだ。ゴミ出しなどで、ちょっとのあいだ子どもを家に置いたまま外出することさえ、グレーゾーンだという。しかもそうした行為を目にした場合には通報を義務づけるという。

 それでは子育てなど不可能だ、通報義務は地域を分断する、などと、当然ながら批判が噴出し、反対署名も始まった。提出した議員たちは、親たちが時間とお金をやりくりして必死に子育てしている現実を知らないのだろう。共働きやシングルの親などの存在も、眼中にないのだと思う。家父長制的なイデオロギーのにおいもする。

 しかし問題は、親が困ることだけではない。見守りと言えば聞こえはいいが、子どもたちを常時監視することを良しとする発想は、彼らの成長にも深刻な負の影響を与えるように思う。 

 自分の子ども時代を振り返ると、大人抜きの、子どもたちだけで育む人間関係や世界が、僕らの成長にとって必要不可欠だったと感じる。大人抜きで遊ぶ際には、ルール作りから子ども同士でやらなくてはならないし、喧嘩になっても、自分たちで仲直りや仲裁の方法を見つけ出さなければならない。その過程で失敗もたくさんしたが、そうした痛い経験を繰り返すことで、他者とのコミュニケーションの方法や折り合いの付け方、責任感などを身体で学んでいったのだと思う。小学6年生になったとき、登校班の班長として近所の下級生たちを学校まで引き連れていく責任を与えられて、身が引き締まったのを思い出す。子どもはそうやって大人になっていくのである。

 もちろん、子どもたちだけで行動することには、一定のリスクも伴う。しかしだからといって籠の中に閉じ込めてしまったら、別のリスクを背負うことになるだろう。

 10月10日、各方面からの猛反発を受けて、自民党県議団は条例案の取り下げを決めた。13日に本会議で可決される見込みだったので、実に危ういところだった。

(『週刊金曜日』2023年10月20日号)

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