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そごう・西武売却めぐり労組が西武池袋本店でスト決行 
背景にあるものとは

寒川栄・ジャーナリスト|2023年9月8日3:58PM

 セブン&アイ・ホールディングス(井阪隆一社長。以下セブン)傘下の百貨店大手、そごう・西武の売却計画を巡り雇用維持を懸念した「そごう・西武労働組合」(寺岡泰博委員長)は8月31日、旗艦店の西武池袋本店(東京都豊島区)で同店組合員約900人全員が始業から終日ストライキに入った。大規模百貨店でのストは1962年の阪神百貨店以来という。

スト当日、百貨店のお膝元、池袋の街をデモするそごう・西武労組の組合員。(撮影/寒川栄)

 厚生労働省の調べによると、日本では74年の5197件をピークにストライキの件数は減少の一途をたどり、近年は年間30件台で推移している。そんな「ストなき時代」に、大企業でストライキが戦術として〝復活〟した背景には何があったのか。

 ストに至るまでの経過を簡単に振り返る。そごう・西武の親会社であるセブンは2022年11月、家電量販店大手のヨドバシホールディングス(以下ヨドバシ)と連携する米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループにそごう・西武を売却する契約を結んだ。しかし店舗の構成などを巡り協議は難航し、23年2月の売却期限は二度延期されている。この間、両者の間では交渉が繰り返されたが、同労組によると、売却で雇用に影響が出ることが確実であるにもかかわらず、労組には昨年11月の売却契約の正式発表に合わせて売却先の社名と同社がヨドバシと連携することだけしか伝えられなかったという。

 同労組の寺岡委員長は「雇用に関わることは団体交渉の協議事項だが、今回の売却が協議事項になるかどうかを判断する情報すら私たちにはなかった」と事情を話す。売却の情報はメディアの報道だけ。百貨店の顔とも言える1、2階にはヨドバシが入る、池袋本店以外にも……など、説明を受けていない情報ばかりで真偽も不明。かりにヨドバシが1、2階を占有するようなことになれば、百貨店のブランドイメージは毀損され、出店している高級ブランド店は撤退するかもしれない。旗艦店の池袋本店の売り上げが大幅に減るような事態になれば、グループ全体が成り立たなくなると、組合員たちの不安は日に日に膨らんだ。

 セブン側は、そごう・西武が23年2月期に4期連続の最終赤字になり、有利子負債が約3000億円に達することから「お荷物」(同社関係者)だとする。ただ、そうであったとしても、雇用に直接影響のある売却でありながら十分な説明がなかったのだ。

各労組からも続々応援が

 事業会社の「そごう・西武」との団交では情報が出ず、組合はセブンに団交を求めた。だが「(そごう・西武の)使用者ではないので団交には応じられない」との対応だった。1年半以上情報がないまま翻弄された労組はストライキ権を確立のうえ団交に挑む方針を立て、6月23日の臨時中央大会で可決、全員投票の結果93・9%の賛成でスト権を確立した。

 スト権確立の効果は大きかった。寺岡委員長は「確立後、団交に井阪社長をはじめセブンの役員が4回参加し、情報も開示された」と話す。だが、セブンが設定した売却期限の9月1日は目前に迫り、雇用維持についての具体的な説明も十分でなかった。組合は8月31日にストの実施を通告。「9月1日に売却しないこと」を回避の目安としたが、セブン側は売却を決定したためストに突入した。

 今回のストは、持株会社体制などで会社の形が変わって複雑化する中「ストなし」を支えてきた労使協調路線が機能しなくなりつつあることを映し出している。大人しく言うことを聞いていても、雇用に関わる情報さえ入らず、満足な交渉もできないのが現実だ。

 スト決行日の31日、闘う選択をした同労組には産業別組合や労組の全国中央組織を超えた労組員が集まっていた。現場では混乱を避ける意味もあり、百貨店の友好組合以外と共同行動する場面はなかったが、多くの労働者の共感を呼んだ。大阪から夜行バスで駆けつけた定時制高校の教諭、渡辺国和さんは「ストは働く者の権利。全国で厳しい状況の中で働く仲間の励ましになる」とエールを送った。

(『週刊金曜日』2023年9月8日号)

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